テーブルの高さが問題
英国の貴族は、午後の3時ごろにスコーンやサンドウィッチなどの軽食を紅茶と共に楽しむ習慣を持っていた。
アフタヌーンティーである。これを「ローティー」とも言う。
語源はコーヒーテーブルのような低いテーブルが用いられるからである。
逆に、ダイニングテーブルのような高いテーブルで食べる夕食のことは「ハイティー」という。
ロー(low)やハイ(high)は高さを表しているのだ。
ところが、これらの言葉がアメリカに渡ったときに混同が生じた。
ハイは高級のことだろう、と考えたアメリカ人は、貴族の習慣であったアフタヌーンティーのことをハイティーであると勝手に思い込んでしまったのだ。
そしてこの誤解が正される前に「ハイティー」は日本にやってきてしまった。
アフタヌーンティーといえば三段オードブルスタンドを思い浮かべる方が多いだろうが、あの食器は本来低いテーブルで使うためのものだ。
普通の高さの食卓に置くと高すぎて一番上の皿が見にくく、使いづらい気がするのはそのためだ。
ティーには「食事」の意味もある。
ゆったりとソファに座ってお茶などを飲む時間のない労働者は、夜に家に辿り着いて肉を中心とするカロリー高めの夕食をとって英気を養った。
それが本来の「ハイティー」である。
和製英語と文明の伝播
この他にも、元は英語なんだけど、英語圏では通じない可能性が高い日本ならではの用法は様々にある。
例えば電気製品に電気を供給するためにプラグを差し込むジャックのことを、日本では「コンセント」というが、英語では「アウトレット(outlet)」という。
ハンバーガー屋の店内で食べるのではなく、お持ち帰りすることを、我々は「テイクアウト」というが、本来は「トゥーゴー(to go)」である。
最も衝撃的な変化を遂げたのは「モーニング・サービス」であろうか。
日本での意味は喫茶店などが午前中に提供する格安の朝食セットを指す場合が多いが、英語圏では、日曜日の午前中に神父が教会でたれるお説教のことだ。
文明はこのように大きな誤解をはらみながら伝播していくものなのだ。