重力が光を曲げる
太陽のような大質量の天体が持つ重力は光の進路すら曲げてしまう。
地球から見て、太陽の縁すれすれの後方に位置する星は、太陽の重力によって歪まされた空間を通ることで、実際の位置よりも太陽から離れた位置にあるかのように見える。
このことも一般相対性理論が明らかにした。
第一次世界大戦により世界中が疲弊している中、英国の王立天文学会が、観測撮影が容易になる皆既日食のタイミングを狙い、ブラジルと西アフリカの2か所に研究者を派遣して観測した結果、理論が正しいことを確認した。
1000億単位の恒星で形作られている「銀河」。
その「銀河」の質量たるや、文字通り天文学的な数字になるわけだが、例えばそんな銀河のうちのひとつ、名前を仮にAとする銀河の真後ろに位置しているため、地球からは見えないはずの銀河Bが、バッチリ見えてしまうことがある。
高性能の望遠鏡で観測すると、Aの周囲にBの歪んだ像が複数認められるのだ。
これは大質量により銀河Aの周辺の空間が変形してあたかもレンズの様になり、Bから発された光がそこを通過する際に曲げられ、地球に届いてしまうのである。
あたかも会社帰りのサラリーマンの意志に反し、その身を引き寄せる赤ちょうちんの如く、重力は光の進路を捻じ曲げてしまう。
重力に打ち勝つヤモリとリニア
太陽とは比較にならないとはいえ、地球だって膨大な質量をもっている。
前段で紹介したように、強大な力に見える「重力」だが、ヤモリやリニア新幹線には負けてしまう。
吸盤があるわけでもないのに、ヤモリが重力に打ち勝って、天井を自由自在に這いまわれる理由は、未だによく分かっていないそうだ。
脂質を分泌しているのではないかという学者もいるが、はっきりしない。
ともあれ彼らにとって重力は苦にならないのだ。
マレーシアに駐在していたころ、現地で暮らしていて困ったのは、彼らヤモリの落とし物。
彼らは壁や天井のある所ならばどこにでも出没し、ところかまわずフンを投下してくる。まさに四次元殺法。
見かけは意外と愛らしいし、手に載せるとひんやりとして気持ちいいが、なかなか凄い生き物なのである。
リニア新幹線の浮上と走行の原理はモーターと同じで、線路の両壁面に設置されるのが固定子に相当し、車両に搭載されるのが電機子に相当する。
モーターであるならば円筒状にこじんまりとまとまっているところを、リニアでは固定子が走行路の始まりから終わりまで何百キロにわたり引き伸ばされている。
電機子も、車両の先頭から最後尾までの長さがある。
原理は同じなので、N極とS極が引き合う力と、同極同士反発する力を交互に組み合わせて浮上と走行を行うのである。
たったこれだけの単純な仕組みで、リニアは重力に逆らい列車一編成700トン以上もの重量を浮かばせつつ、時速500キロの超高速を実現する。
実用されれば東京-大阪間は所要1時間となり、飛行機による移動よりも確実に短時間となる。
強いようでいて、そうでもない力。
それが重力なのである。