32歳の時にロードバイクに乗り始めて、今年(2018)で9年経つ
ロード「バイク」なんて言うと大仰なものに聞こえるかもしれない。だが、要するには「自転車」なので、70歳過ぎて元気に乗り回している人も特段珍しくはない。だから9年と言うキャリアは、決して誇れるような長さではないが、かといって「初心者」というほど短くもないだろう。
9年間の間に、アルミバイク3台、カーボンバイク3台、クロモリ(鉄)バイクを1台、計7台のロードバイクを購入し乗り変えてきた。9年間で7台は、ごく一部の好事家を除くと、割と多い方だと自負している。よって、ロードバイクを速く「乗りこなす」ことに関しては、誰かにアドバイスできるような腕(むしろ脚)を持っていないが、ことロードバイクを「買う」ことに関して、特にこれからロードバイクを始めてみようかな、と考えている人にとっては、僕の経験が参考になるかもしれない。
エントリーモデルの功罪
大きな書店のスポーツ雑誌コーナーへ行くと、大抵下の方の棚に「はじめてのロードバイク選び」といった類のムック本を目にすることができる。また、Googleで「ロードバイク 初心者 おすすめ」のような検索をかけると、それなりの量のまとめ記事が出てくるだろう。この手の記事ではたいてい、現行のロードバイクを価格別に「10万円前後のエントリーモデル」「20万円から40万円のミドルグレード」「50万円超のハイエンドモデル」といった分類をしていることが多い。初心者は大抵こういう雑誌や記事を読み漁るもので、読んでいるうちに「やっぱり最初はエントリーモデルから始めた方がいいんだろうな」と刷り込まれてしまう。僕も御多分に漏れずそうだった。
野球やテニス、釣りやスキーなど、専用の道具を必要とするスポーツにはたいてい「エントリーモデル」がメーカーによってラインナップされている。こういったエントリーモデルの特徴はまず「廉価であること」そして「クセが少なく扱いやすいこと」が挙げられるだろう。一見ロードバイクのエントリーモデルも先にあげた特徴が当てはまるように思える。確かにミドルグレードと呼ばれる価格帯と比較すれば安いし、乗り味に尖った特徴のあるモデルは少ないだろう。だがしかし、先に例に挙げたようなスポーツの初心者用道具が1~2万円程度で購入できるのに対し、ロードバイクのエントリーモデルは少なく見積もっても8万円~15万円くらいする(アルミバイクが一般的)。安くて8万円である。月の裏側を見てくるというどこかの社長さんならいざ知らず、たいていの人にとって「廉価」とは言い難い価格であろう。
何のためにロードバイクを買うのか
ここで改めて確認しておきたい。貴方は何のために、ロードバイクを買うのだろうか。「カッコイイと思ったから」「グランツールを始めとした自転車レース文化に興味を持ったから」「仲の良い友達に一緒に走ろうと勧められたから」「ダイエットに効くと聞いたから」その理由は人によって千差万別だろう。
ちょっと先に始めた者から言えることは、ロードバイクはスポーツでありながら、その実「大人の玩具」としての側面が非常に強い趣味である。ただサイクリングをしたいだけ、通勤をはじめとした「移動の手段」としてだけ使いたいのであれば、わざわざ大枚はたいて、自立するスタンドも、荷物を入れるカゴも泥除けもついていないロードバイクを買う必要などないのだ。ほとんどのロードバイク乗りは、「乗ること」以外に、バイクを「価値あるモノ」として愛でることをしている。ブランドを気にし、デザインを気にし、素材を気にし、そして下世話な話だが価格をちょっと気にする。思考パターンとしては高級外車の愛好家と似ているかもしれない。「いけ好かない趣味だな」と思われる向きもあるだろうが、そういう一面があるということを予め知っておいた方が良い。そしてひとたびハマってしまえば、貴方自身も多かれ少なかれそういう意識を持つようになる。自分も相手のバイクが気になるように、相手も自分のバイクを値踏みしているのではないか、と考えるのだ。
最初の一台におススメは、ミドルグレードのカーボンバイク
改めて言うがエントリーモデルそのものを否定しているわけではない。僕も最初の一台はショップオリジナルのアルミバイク(8万円くらい)だった。はっきりと良い自転車で、最初の数カ月は本当に楽しかった。だが、ロードバイク文化に触れ、同じ趣味の知り合いが増え、知識を身に着けるほど、「次の一台」が欲しくてたまらなくなってしまった。そして、最初の一台を購入してから半年後、キャノンデールのCAAD9(23万円くらい)という、これまた若干エントリー色のあるモデルを購入、エントリーモデルを二台続けて買うというよくわからないことをしてしまった。半年間という短いスパンで新しい高額な自転車を購入するのに色々気の迷いが生じた結果といえる。今考えても胸が苦しいが、ちょっと金が無駄だったとは思う。
最初の一台を買う前の僕に、今の僕がもしアドバイスできたならどんな一台を勧めるか。今なら、「ミドルグレードのカーボンバイクで、デザインが一番好みのものを買え」と言う。何故か。まず一番大きい要因は、一部の大手メーカーを除いて、「カーボンバイク」がミドルグレードからしかラインナップされていないということ。素材としてのカーボンは、他のアルミや鉄といった素材と比較して「軽い」という圧倒的なアドバンテージがある。ペダルを踏みこむとパワーを溜め込むような数瞬のタメがあと、バネのように反発してスピードが乗る感じもカーボンならではのものだろう。それならもっと奮発してハイエンドモデルだっていいじゃないか、と思う向きもあるだろう。だが、ロードバイクの世界で「ハイエンドモデル」というのは「レース用」とほぼ同義で、フレームの剛性や、操作性が初心者が乗って快適とは言い難いものが多い。また現在のハイエンドモデルの潮流として、シートポストが一度設定したら変更不可なデザインになっているものも多い。ライディングポジションは、固まるまでそれなりの期間を要するものなので、そういった意味でも、ハイエンドモデルをいきなり買うのはあまり勧めない。ミドルグレードのカーボンバイクは、程度の差こそあれ、「アマチュア」が使うことを念頭に設計されている。エントリーモデルだけが、初級者向きというわけではないのだ。もちろん、アルミにはアルミのシャキシャキした乗り味があるし、クロモリは衝撃を吸収するかのようなしっとりした乗り味がある。それらの愛好家をクサすつもりはないが、いわば現在進行形で進化する「ロードバイクの楽しさ」を最も体感できるのが、カーボンバイクなのではないかと考えるからだ。
語弊を恐れず言えば、ミドルグレードのカーボンバイクは、ロードバイクを趣味としている人たちのごく「標準的な道具」だ。一台あれば、エンジョイレースでもツーリングでもヒルクライムでも何でも楽しめる。言いながら自分でさもしい人間だなと自戒するが、エントリーモデルに乗っているときに感じたちょっと肩身が狭いような気持ちになることもない。
ブランドは、気に入ったならなんでもいいと思う。ヨーロッパのメーカーよりも、台湾のメーカーの方が同じ価格で比較したときにちょっと良いパーツが付いていたりするが、大した差じゃない。こだわり始めたら結局全部変えることになる。
カーボンバイクは扱い辛くない
当時よく言われていて、今も多分多くの人が耳にすると思うのが「最初の一台はカーボンじゃない方がいい」というアドバイスだ。いわく、カーボンは強度に定評ある素材だが、点の衝撃に弱いので、慣れていない初心者のうちに転倒した際、いきなり壊れてしまうことがあるという。まず、ありえない話だ。カーボンバイクが割れるとしたら、スピードがかなり乗った状態で、尖ったものに激突したときくらい。おそらく交通事故がこれに当たるが、そもそもそんな衝撃は、アルミだろうとクロモリだろうと耐えられるわけがない。それにカーボンバイクが壊れるような衝撃を自転車が受けたら、乗っている貴方もおそらく無事では済まないので、そもそもそういう事態を絶対に招かないよう気を付けるべきだ。先ほどのアドバイスは「交通事故に遭ったら壊れるからカーボンはやめたほうがいい」という論旨に近い。私見では真剣にとらえる必要はないと考える。
以上、あくまで一人のロードバイク乗りの偏った見解として受け取ってほしい。エントリーモデルと二代目に使ったお金。合計したら結構良いバイクが買えたのにな、そんな慚愧の念からこんな長文をしたためてしまった。バイク選びの参考になれば幸いである。