兵器としての飛行機の最初の仕事は、戦闘や爆撃ではなく「偵察」であった。
三菱99式陸軍偵察機
99式陸軍偵察機は、低空飛行時の操縦性に特に優れ、尚且つ頑丈な構造であったことから、第二次世界大戦を通して偵察機として以外にも、爆撃や艦船攻撃にも運用されたユーティリティな飛行機であった。
全長 9メートル/幅 12メートル/自重 1.8トン/最高速度 時速420km(高度3,000メートル)/航続距離 1,000km/生産機数 2,400機
特徴的な出っ放しの足は、当時をして時代遅れにも見えるが、シンプルな構造ゆえに整地されていない場所での離着陸も可能であったし、戦地における整備も容易であった。人間に例えるなら、朴訥としている屈強な武士のようであった。
武士といってこじつけるわけではないが、日本映画不朽の名作『七人の侍』『用心棒』『椿三十郎』などに主演した三船敏郎さんが、戦時は偵察要員として99式偵察機に乗り敵地の写真撮影を行っていた。
終戦後、彼は身に付けた撮影技術を活かすべく映画撮影所に職を求めたのだが、生憎カメラマンの空きは無かった。しかし、人目を惹き付けるその容姿や、戦争を生き抜いた胆力が関係者の目に留まり、すぐに出役としての仕事が回ってきた。スターウォーズのオビワン・ケノービ役のオファーで知られる通り、世界に通用する日本映画史上最も男っぷりの良い俳優の誕生であった。
三菱100式司令部偵察機(戦略偵察機)
大戦中の偵察機といえば、こののびのび育ったサツマイモの如き機体をおいては語れない。
100式は特定された攻撃目標地点だけを偵察するのではなく、より長期戦略的な観点から、広範囲の地域の偵察を目的とした。
戦略偵察機というカテゴリーは、米国や英国に先駆けて日本が最初に開発、実用化したことで知られている。100式は高速巡行が出来、かつ航続距離が長かった。開戦当初から終戦まで運用された。
視認性の高い大きな窓ともに流線形の優美な機体が特徴的で、実戦に投入された頃は、100式に追いつくことができる敵戦闘機は少なかった。その優れた性能故に、大戦末期には斜め上空を狙う機関砲を据えて、高高度を飛ぶ敵大型爆撃機への遊撃にも用いられた。
全長 11メートル/幅 15メートル/自重 6.7トン/最高速度 時速630km/航続距離 4,000km(補助燃料槽使用)/生産機数 1,700機/乗員 2名
ロッキード U2偵察機
U2はスピルバーグ監督のアカデミー賞受賞映画『ブリッジ・オブ・スパイ』に、ソ連を偵察する機体として登場する。映画は史実を元にしており、時は冷戦最中の1957年、アイゼンハワーとフルシチョフの時代に、米国内で逮捕されたソ連スパイを弁護するという、困難且つ身の危険を伴う誰もやりたがらない任務を担当することになった弁護士(トム・ハンクス)の活躍を描いた。
裁判の判決は死刑の可能性が高い有罪となるが、弁護士は刑を軽くすべく判事の説得を試みる。彼の主張は、被告人は敵側とはいえ母国の為に働いていた忠誠心の高い人間であるから、彼の人権は尊重されるべきこと、並びに将来、何らかの理由でアメリカ人がソ連の捕虜となった場合に、交換取引が行えるよう、保険として被告人を生かしておくべきという主旨であった。判事は納得して被告人の極刑は免れた。主人公の弁護士は、元来保険が専門分野であった。裁判からほどなくして、U2撃墜事件(1960年5月)が発生し、パイロットがソ連に捕まってしまう。弁護士は捕虜交換のために東ドイツに赴き交渉を行い、捕虜交換が実現する。弁護士のかけた保険が奏功したわけだ。タイトルのブリッジとは、東西ドイツの間にかかるグリーニッケ橋のことで、その後何度も捕虜交換の舞台となった。
U2は米国ロッキード社が、F104をベースに開発した、商業ジェット機が飛行する高さの倍、2万メートル以上の高空を飛行する偵察機である。これほどの高高度を飛べる戦闘機は存在しなかった。ただ、ソ連はU2撃墜用の地対空ミサイルS-75の開発に成功し、これにより撃墜されてしまったわけだ。
ロッキード SR-71ブラックバード
ブラックバードは日本陸軍100式司令部偵察機の思想を受け継ぐ戦略偵察機だ。
U2が撃墜されてしまった前段の事件を受け、ロッキードが開発した後継機となる。最高速度はマッハ3という高性能機ではあったものの、操縦難易度が高いことや運用費用が嵩むことで、1967年から12年間だけ運用されておしまい。今や進歩した目を持つ偵察衛星も無人機であるから、有人偵察機の必要性は低下した。
超高速機ゆえ大気との摩擦で機体が熱されてしまうため、通常のアルミ合金ではなくチタン合金で造られていた。
全長 33メートル/幅 17メートル/空虚重量 29トン/最大離陸重量 52トン/最高速度 マッハ3/巡航高度 25,000メートル/乗員 2名/武装 なし
無人偵察・攻撃機 RQ-1/MQ-1プレデター
有人機は撃墜されて貴重な操縦士を喪失する可能性があるので、現在は盛んに無人機が偵察任務に投入されている。
プレデターは偵察だけでなくミサイルによる攻撃も行う。
全長 8メートル/幅 11メートル/空虚重量 510kg/最大離陸重量 1トン/巡航速度 時速150km/最高速度 時速220km/上昇限度高度 7,600メートル/航続距離 3,700km
プレデターの操縦士は米国の何処か空調の効いた部屋の中にいながら、液晶の画面を見つめつつ操縦を行う。軍隊にいながら極めて安全な職種なのだが、この仕事はパイロット達にとって不人気なんだそうだ。
理由は2つあって、一つ本来戦いは相手を倒さねば自分がやられる、という明確な自己正当化の下に行われるのであるが、無人機操縦だと自分は全く身の危険がない状態にありながら一方的に敵を殺傷するという、ただの殺人行為となってしまい、この構造が精神を蝕んでしまう。
もう一つは、操縦士の世界には危険の高さに比例する序列があり、頂点は試験飛行士、次に戦闘機乗り、爆撃機乗りと続くわけだが、無人飛行士はその底辺に据えられてしまう。甚だ自尊心を傷つけられてしまうというわけだ。見てもらえばわかるが飛行機好きとしてもこのへんになると、イラストを描くにやる気が出ない。
物事は便利になればいい、というわけではないという話。