【ネタバレあり】「キャプテン・マーベルはスーパーマンになれたのか問題」を検証する:前編

【ネタバレあり】「キャプテン・マーベルはスーパーマンになれたのか問題」を検証する:前編

本稿は2019年3月公開映画、アンナ・ボーデン 、ライアン・フレック両監督作品『キャプテン・マーベル』について、ならびにこれまでのMCU映画についてこれでもかってくらいネタバレをしています。未見の方はご注意ください。

鑑賞前のポイント整理

はじめに、本作『キャプテン・マーベル』については、一本の映画としての出来もさることながら、これまで20本の作品を連ねてきたMCU(マーベルシネマティックユニバース)のシリーズの千秋楽にあたる『アベンジャーズ:エンドゲーム』(2019年4月公開予定)の「前フリ」として、クライマックスへの期待感を煽り、また劇中の時系列的にシリーズ第一作の『アイアンマン(2008)』より前の時代を描くことから、「シリーズ全体の前日譚(※キャプテン・アメリカ:ファーストアベンジャーを除く)」として、違和感のないものにしなければならないという、製作陣にとって特にシナリオ面で非常に難易度の高い作品であったということを、改めて確認しておきます。

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マーベルコミックスのファンにはもはや説明不要ですが、本作の主人公キャプテン・マーベル(キャロル・ダンバース)というヒーローは非常に強力なパワーを持つキャラクターです。容姿は人間の女性に見えますが、銃弾もはね返す強靭な肉体、超人的な筋力に高速飛行能力、両の手から放つエネルギーブラスト、挙句の果てには「バイナリィ」という、ドラゴンボールで言うところのスーパーサイヤ人みたいな無敵モードも装備しています。語弊はありますが、ライバル会社のキャラクターで世界一著名なヒーロー、スーパーマンとその能力において遜色ないキャラクターであるわけです。

これらのパワーは、原作コミックス由来ですので、映画に出すからと急にとってつけたわけじゃないのですが、一連の映画シリーズのファンならご承知の通り、現在アベンジャーズは『アベンジャーズ:インフィニティーウォー(2018)』において半壊状態。あと一作を残して絶対絶滅の大ピンチとなっています。そういった事情を踏まえて、まとめると以下の2点、

1.キャプテン・マーベルが、映画に既出のヒーロー達では倒せなかった敵(サノス)をどうにかできるのであれば、その絶大なパワーの由来、これまでの映画で構築してきた世界観におけるロジックはどういったものか。

2.キャプテン・マーベルが一連のマーベル映画が描いてきた世界に「存在」するのならば、なぜもっと早く、これまでも色々あった地球の危機に駆け付けてこなかったのか。

映画『キャプテン・マーベル』は、観客の脳裏に当然浮かぶであろうこれらの問いに、何らかの形で回答しなければならず、前の記事でもグダグダ書いたように、その点個人的に非常に関心がありました。

日本に先駆けて公開された本国アメリカでの評判が、従来のシリーズと比較するにそこまで抜きんでたものではなかった為、鑑賞前は「さては下手をうったのか。」と心配していたのですが、では実際鑑賞してみてどうだったのかというと、上記のポイントに関して言えば「かなり上手くやっていた。」というのが率直な感想です。後でその他の点については、ちょっと苦言めいたことも書きますが、何より至難の業に見えた上記の命題をクリアしている時点で、『キャプテン・マーベル』は及第点以上の作品と言えると思います。

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パワーの由来と描き方

なぜキャプテン・マーベルのパワーの由来の提示や、その描き方が大事か。

その説明の前に、まず原作コミックスでキャプテン・マーベルことキャロル・ダンバースはどうやってスーパーパワーを手に入れたのかといいますと、マーベルコミックスの長い歴史の中でちょいちょい改変はされているものの、おおむね、地球人であったキャロルが爆発事故に巻き込まれ、その際に一緒にいたクリー人のヒーロー(先代キャプテン・マーベル)のDNAが体内に混ざり、地球人とクリー人のハイブリッドみたいな存在になった、ということになっています。

いかがですか?実写映画でこのまま描かれて、それで彼女が既出のヒーローの中で最強で、空を飛び、手からビームを出します、と言われても多くが納得できるシナリオにはならないでしょう。今まで聞いたこともないようなトンデモ理由で強くなった後出しのキャラクターが、20作を超えるシリーズの最後の最後に登場して、味方の形勢逆転を担うなんてご都合主義もいいところです。

ここにきてキャプテン・マーベルを登場させるのであれば、その強力なパワーの説明は、強引にでも今まで映画のシリーズが描いてきた設定を踏襲したものでなくてはなりませんでした。

そこで、本作『キャプテン・マーベル』はどうしたか。

コミックスの「爆発事故」はそのままに、キャロルが融合したのは、MCUのテーマであるインフィニティストーンが1つ、スペースストーンから抽出したエネルギーという映画オリジナルの設定に変更していました。これまで20作を数えるMCUにおいて、6つあるインフィニティストーンからエネルギーを取り出すことができることも、そのエネルギーで作った人造人間や改造人間(ヴィジョンとワンダ・マキシモフ)が、強い力を操り、空を飛んだりビーム出したりできることは観客に提示済みです。

どういう理由付けをしたって、ご都合主義っぽいことになってしまいますが、その中ではほぼ最適解といえる解答ではないでしょうか。

また空を飛ぶこと以上に観客の抵抗感が強そうな「拳からビーム問題」も、冒頭から登場させて、拘束具であえて使えなくさせてみせたり、ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)にツッコミを入れさせたりと、観客に飲み込ませるために丁寧に時間を使っていて好感がもてます。

ロナンをして「惑星の防衛システム」が如き出鱈目な活躍をみせても、「まあ、インフィニティストーン由来なら仕方ないか。」とギリギリ思える見事な着地でした。

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想定よりかなり長い記事になってしまいそうなので、まずここまでを前半として、後半は次稿で「シリーズとの整合性」および「一本の映画としての感想」などを述べたいと思います。

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