ちょっとだけ期待外れでした『アントマン&ワスプ』レビュー

ちょっとだけ期待外れでした『アントマン&ワスプ』レビュー
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特殊な日本市場

日本以外の世界では大ヒットを記録した本作。

唐突ですが『アントマン&ワスプ』の日本国内における興行収入は、どのくらいだったか読者諸兄はご存じでしょうか?

同年に公開されたMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の、『ブラックパンサー』や『アベンジャーズ:インフィニティーウォー』と比較してどうだったか。今夏話題をさらった予算300万円で制作された邦画『カメラを止めるな』と比べてどちらが観客を動員したか。

調べてみて意外だったのですが、『アントマン&ワスプ』の国内興行収入は、今年劇場にかかった(前年から公開を継続された映画を含む)映画の中で、44位(約11億円※2018年11月時点)という成績になります。

ランキングの一つ二つ上を望むと、竹内涼真主演『センセイ君主』やジェラルド・バトラー主演の『ジオストーム』など個人的に微妙な作品(好きな方ごめんなさい)が並んでいます。

10億円を超えればスマッシュヒットと呼ばれる国内の映画配給事情の中、決して悪い成績というわけではありませんが、今をときめくMCUの最新作としてはいささか寂しい数字と言わざるを得ません。

何しろこの11億円という興行収入は、前年度の2017年、前々年度の2016年であればTOP50にすら入らないのです。(ちなみに『カメ止め』は15位30億円、『インフィニティーウォー』は11位37億円、『ブラックパンサー』は34位15億円)

このことで、思い出すのは2014年の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』。

世界中で大ヒットを飛ばしたにもかかわらず日本では失速、それを受けて二作目の公開に当たっては、原題の『Vol.2』が外されて『リミックス』というワケのわからない副題が添えられることとなりました。

日本のアメコミ映画ファンにとっては慚愧の念すら感じる結果でしたが、その『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の国内興収は10.7億円。本作とほぼ同じででした。

ただ、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』一作目が公開された時と、本作では条件が異なります。先行するマーベル映画と同じ世界観を共有するという前情報はあったものの、知名度ゼロのキャラクター達を主人公にした『GotG』とは異なり、『アントマン&ワスプ』は2015年『アントマン』の正式な続編。2016年の『キャプテン・アメリカ/シビルウォー』では人気者のアイアンマンらと絡んだこともあります。

本作興行収益の凡庸な結果には、他の理由がありそうです。

おっさん主人公について

原因として巷でよく言われる「アメコミ映画の作り過ぎ」ですが、アメコミ映画が公開される本数は世界中で変わりはないはず。

ではなぜ「世界では大ヒット、ただし日本ではイマイチ」みたいな現象が起こるのでしょうか。

興行収入の話をしましたが、ランキング上位の顔ぶれをみると、なんとなくその答えが判ります。

『名探偵コナン(2位)』『ドラえもん(5位)』『銀魂(12位)』『ポケットモンスター(16位)』『妖怪ウォッチ(23位)』…そう、日本は世界でも類をみないほど自前の(子供向け)キャラクターが充実した国です。日本で映画を良く観に行くのは、中高年かファミリー層。特に大ヒットを飛ばすにはファミリー層の動員上乗せが絶対不可欠。いかにも子供受けしそうな本作の国内版予告編や大宣伝にも関わらず、「アントマン」が上昇気流に乗れなかったのは、まず子供たちの心を掴めなかったことが大きいのでしょう。

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元も子もない話をすると、日本の少年少女は、「おじさん」ヒーローに厳しいです。週刊少年ジャンプなどを読むとよくわかります。鉄人28号や鉄腕アトムを引き合いに出さなくとも、日本では結構前からヒーローは「若いか、カッコイイか」あるいはその両方でなくてはならないのです。アントマン(スコット・ラング)はそのどちらでもないとジャッジされたのでしょう。

私見では作品のクオリティ的に同程度の『ブラックパンサー』が『アントマン&ワスプ』のわずか上をいったのは、単純にブラックパンサーの容姿が若干カッコよいからに他ならないと考えます。

バランスがあまりよくない

筆者はMCUを始めとするアメコミ映画の大ファンなので、公開当時この映画をそれなりに楽しく観ましたが、公開終了から日が経って本作について、自分の中の印象が「薄い」ことに気付かされます。

僕が感じたこの「薄さ」はどこから来るものか。

まず、本作は続編でありながら、前作でバイプレイヤーであった登場人物を「格上げ」してもう一人の主人公にするという非常に変わったことをやっています。

登場人物自体は増えていないのですが、一人の扱いを大きくすることによって、自然前作の主人公の扱いは小さくなってしまいます。

想像してみて下さい、『アイアンマン』で好評を博したあとの二作目が『アイアンマン&ペッパー・ポッツ』だったらどうだったでしょう。

一作目のアントマンの飄々としたキャラクター、地に足の着いた物語に好感を持った側からすれば、その続編でもあくまでアントマンことスコット・ラングの物語を主軸において欲しかった気がします。

語弊を恐れず言えば、本作でのアントマンはあくまで「お手伝い」に終始。ヒーローとして戦う動機に乏しい印象を受けました。

また、このアントマンのシリーズは、20作近く制作されているMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)作品の中でも、立ち位置としてコメディ色が強い作品です。

同じMCUの中で、コメディ要素が強い作品というと『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』、そして昨年公開の『マイティ・ソー:バトルロイヤル』を挙げることができます。

どちらもファンの間で大傑作との呼び声が高い作品です。これら二作と比較して、『アントマン&ワスプ』に足りないところはどこか。

それは「絶対悪」、強大な敵役の存在です。

本作のヴィラン、「ゴースト」はご覧になった方はお判りのように、物理的なまったくもって致し方ない事情から、主人公二人の敵側に回っています。

具体的にはワスプの父親、ハンク・ピム博士の研究所が病気(のようなもの)を治すのに必要で、その機材を奪おうとして争いになるわけですが、「そんな事情なら盗もうとしないで相談に乗ってもらっては?(相手は一応ヒーローだよ?)」という当然の疑問が観客の脳裏に浮かんでしまいます。

個人的にこの「ゴースト」のキャラクターとしての造形は能力含めて大変好みで、中の人も見目麗しく、端的にいって大好きなのですが、いかんせんヒーロー映画の悪役として、コメディで弛緩しがちな物語の推進力として、迫力不足であったと思います。

ゴースト以外の、チンピラみたいな第三勢力も、お茶を濁す以上の役割を見出せなかったのも痛いですね。

言わずもがなの科学考証

ナノテクノロジー、雷の神様、ガンマ線、インフィニティーストーン等々、確かにこれまでのMCU映画には、およそ実際の科学とはかけ離れた「創作科学」要素がたくさん登場してきました。

しかし何故だか「アントマン」のシリーズに登場する、「原子間の距離を変えてモノを大きくしたり小さくしたりする描写」にだけは物凄い違和感を感じます。

まず前提として現実に、もし原子と原子の間の空間の距離を変えたりすることができたとしても、原子の質量は変化しないはずです。

よって、縮小したビルは持ち運べる重さどころか、地面に何十メートルもめりこむはずだし、拡大したPETZの容器は比重の軽さゆえに、宙に浮いてしまうはずです。

「いや、そこはファンタジーだから、大きくしたら重くなるし、小さくなったら軽くなるってことなのよ。」ってことであれば、アントマンが小さくなった時に繰り出すパンチで、敵が吹っ飛ぶのは何故でしょう

これは前作にも言えることですが、実際にある科学っぽい要素を登場させる割に、その運用がかなり曖昧なところも観客によっては欠点となりえます。

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苦言めいたことばかりを書き連ねてしまいましたが、上にも書いたように「楽しい映画」であることには違いはありません。

「現代のスターウォーズ」なんて言われ方もする今をときめくMCU、ハリウッドのメインストリームにいる作品群であるからこそ、ファンがかける期待がそれだけ大きい、ということなのです。

75点(うちゴーストによる加点10点)

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