船にも幸運な船と、不運な船とがある。
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宗谷は並外れて幸運な船であった。
1938年進水。太平洋戦争中は帝国海軍の特務艦として危険な南洋方面で物資の輸送を担当。敵の爆撃を何度も受けながら不思議と被弾せず、戦争を生き抜いた。
そして老朽船と言われつつも、また外国の砕氷船と比較して明らかに非力でありながらも、1956年以降南極観測船として活躍した。その健気さは涙を誘うばかりであった。
この初期の南極観測は、文字通り日本中が熱狂する国民的行事であった。これに比較できる国家的イベントはその後ちょっと思いつかない。当時小学生であった私も新聞や雑誌に載った宗谷の雄姿に夢中になった。ある週刊誌の表紙を飾った、南極の氷の白と、船体の鮮やかなオレンジの対比の美しさは今も心に焼き付いている。
私にとって宗谷は単なる一隻の船ではない。それ以上の何か、である。
(イラスト・文: YOGI age71)
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