2018年間ベスト候補
まず何よりも言いたいことは、読者諸兄がこの映画をまだ見てない
映画ファンの間で伝えくる前評判は良かったものの、PRは派手と
よって、
普段アクションやSF映画といったジャンルの映画を好み、製作者
鑑賞後はただ圧倒され、主人公にも通じるような疲労感に襲われました。
センスの塊のような演出・脚本
映画館のスクリーンをPCのデスクトップ画面に見立てて、twitterやfacebook、YoutubeなどのSNSに投稿される映像やテキストで全編が進みます。
最初アイデアだけ聴いたときは、「さぞかし見辛い映画なんだろうな」と思ったものですが、これがまったくの杞憂。
断片的な映像はともかく、テキストに起こされた会話文、それを相手に送信するしないの逡巡、マウスのポインタの動きで登場人物の心情を表現する手法は、画期的な発明以外の何物でもないでしょう。
「映画に説明的な台詞は一切必要ない」そのことをまさに体現した演出でしたね。
終盤、若干デスクトップ上での進行という縛りが窮屈に感じるところもありますが、気になるほどではないので減点材料になりません。
脚本も出色の完成度だと思います。
次々に現れては、消えていく手がかり。
特に感心したのは、劇中何度となく訪れる起承転結の「転」の場面が、全編PCモニター上で展開するという映画の特性をフルに活かしたもので、主人公と同じタイミングで観客も「違和感に気付くことができる」という仕掛けがとても楽しかった。
上映時間の中ほどをこえたあたりで「なんだそういう話か」と、ヒューマンドラマ的な着地に失望しそうになりますが、それこそ制作側が仕掛けた罠。終盤にかけて奈落の底が抜けたように始まる怒涛の急展開。予想もしない真相。そして迎える圧巻のクライマックス。
監督と共同脚本のアニーシュ・チャガンティは、本作が長編映画デビューとなる若干27歳。
大学の同級生でプロデューサーのセブ・オハニアン(本作でもコンビ)と制作し、Youtubeに投稿した2分半の短編映画「Google Glass: Seeds(原題)』がわずか24時間で100万回の再生回数を記録。それがGoogleクリエイティブチームの目に留まり、二年間GoogleのCM制作などを勤めたシンデレラストーリーの主人公です。↓これがそのショートフィルム。
誰でもその気になれば一夜にして人生を変えてしまえる、SNSの申し子のような才能が本作のメガホンをとっているところも味わい深いです。
虚構の現代を生きる
とはいえ、つくづくSNS文化というものは脆く危ういものです。
オンライン上での繋がりなど、蓋をあければ何が飛び出してくるか判ったもんじゃありません。
SNSに誰よりも精通する作者が鳴らす現代への警鐘、そういった社会派な一面もこの映画は多分に持っています。
僕の友人にかたくなにLINEやSNSをやらない男がいて、普段から仲間うちでめんどくさがられているのですが、奴が一番賢いのかもしれません。
強いて欠点をいうなら、字幕は画面上の情報を全て翻訳してくれないので、英文が多少分かる方の方が、テキストのログの内容の芸の細かさを楽しめるのと、何よりスマホやPC、SNSに対してある程度のリテラシーがないと、ひょっとしたら上に挙げたような演出が伝わらない可能性もあるので、観る人を全く選ばないわけではないというところです。
95点