【最強VS世界】世紀のハンデ戦の行方は?『ジョン・ウィック:パラベラム』レビュー

【最強VS世界】世紀のハンデ戦の行方は?『ジョン・ウィック:パラベラム』レビュー

ご注意:本稿は『ジョン・ウィック:パラベラム』の鑑賞後レビューです。ストーリーの展開について直接の言及は避けておりますが、鑑賞前に僅かな情報もお知りになりたくないという方は、閲覧をご注意ください。

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スポーツの秋です。

ラグビーW杯にはじまり、バレーボールに世界陸上、プロ野球のクライマックスシリーズにBリーグ開幕と、テレビをつければ何かしらスポーツイベントを中継しているような今日この頃ですが、スポーツとはあまり関係がないように見える映画館でも、現在ある競技の国際大会が開かれていることをご存知でしょうか。

競技のジャンルは「殺人術」。

現在(2019.Oct)絶賛公開中の劇場映画『ジョン・ウィック:パラベラム』では、この競技の現統一世界チャンピオン、ジョン・ウィック(キアヌ・リーヴス)がタイトルを防衛すべく、堰を切ったように襲い来る挑戦者の大群を相手にアクション映画史上でも類を見ないほどの奮闘を繰り広げています。

一人の選手にとって一つの種目で際立った成績を残すことすら難しいというのに、現チャンプのジョン・ウィックは、「近接徒手格闘」「ナイフコンバット」「近接射撃」「中距離射撃」といった殺人術の主要4種目で他を寄せ付けない驚異的なマルチプレイヤーであることが知られていますが、バイクで高速走行しながら射撃するバイアスロンならぬ「バイクアスロン」、馬に対象を蹴らせてその飛距離を競う「ホース・キッキング」、大型本のみを凶器として戦う「サイレント図書館殺し合い編」といった本作より導入される新種目において如何なる活躍をみせるかが、注目ポイントとなっております。

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メジャーの皮を被ったマニア映画

(劇場公開時)大々的に展開されたプロモーション、美麗なポスタービジュアル、主演はあのキアヌ・リーヴスに、脇を固めるはローレンス・フィッシュバーンやハル・ベリーといった誰もが知る大物俳優。本作はレーティングこそR15+とはいえ、いかにもマス向けのハリウッド超大作というパッケージングが施されているため、これまでのシリーズを鑑賞していなくても、「そろそろ見てみようかな。」と鑑賞を検討されている方も少なくないと思います。またかなり話題となった2014年の第一作を地上波か何かでご覧になって、「結構面白かったから(2はよく覚えていないけど)3は観てみようかな。」という方も。

語弊を恐れず言わせて頂くと、『ジョン・ウィック:パラベラム』は前作チャプター2もそうでしたが、完全に格闘アクション映画ファンのみに向けて製作されている映画です。裏を返せば、アクション映画は嫌いじゃないけど、どんな映画にも、筋の通った心の琴線に触れるような物語が必要だと考えている方にとっては「不向き」と言い切ってしまってよいくらい、全精力をスタイリッシュな映像で斬新なアクションを見せることにのみ注力しています。

そのため、第一作では感じることが出来たシンプルながら濃厚な物語や奥の深い世界観も、シリーズを重ねるごとにだんだん希薄になってきており、3作目の本作に至っては、あたかもジョン・ウィックを暴れさせたいがために物語世界が存在しているかの如く、とってつけたような敵を持ってきて、もはや観ていて主人公ジョンがどんな人物で何を考えて行動しているのか、信念の男を描いているはずなのに、ただただ状況に振り回されているだけの男の話のような気さえしてきてしまいます。

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それでは『ジョン・ウィック:パラベラム』は面白くない映画なのかというと、全くそんなことはありません。

今をときめく世界最高のスタント集団「87イレブン・アクション・デザイン」、このプロダクションを率いるデヴィッド・リーチとチャド・スタエルスキ自らが本作のメガホンを執り、ありとあらゆる創意工夫とリアリティを詰め込んで本作のアクションを文字通りデザインしているため、本作はいわば2019年最新版アクションの見本市の様相を呈しています。

冒頭で茶化すように書いたシーンの他、中盤の人と軍用犬が入り乱れて戦うシーケンスなど、アクション映画を割とよく鑑賞している自負のある筆者にとっても画面で初めて観るようなシーンの連続に圧倒され続ける2時間強でした。第一作、第二作と回を重ねるごとに迫力を増すガンアクション、従来なら場面的にもたつくはずのマガジンの再装填すら見どころにしてしまう手腕は、さすがというほかありません。

また『シェイプ・オブ・ウォーター』や『クリムゾン・ピーク』といった優れた芸術性が取沙汰される作品で知られる巨匠ダン・ローストセンが手がけた、蛍光色の赤と青が印象的な照明デザインや、夜の街の描写も幻想的で相変わらず美しかったですね。

アクション映画は、ミュージカルと共通点が多いとよく言われていますが、一流の演者が、一流の劇場で、一流のパフォーマンスを見せる、そんな演目がつまらないはずもなく、例えストーリーが若干添え物っぽくあったとしても充分カバーしてお釣りがくるほどのクオリティは保証できます。特にアクション映画ファンにとっては必修科目と言えるでしょう。

シリーズは本作で完結ではなく、次作の2021年公開が既に決まっておりますが、あえて希望を言うならば、ストーリーにもう一度、一作目くらいの熱量が欲しいなということと、終盤のシラットコンビとのバトルで感じたことなんですが、ヤヤン・ルヒアンとセセプ・アリフ・ラーマンの動きが速すぎて、数か所キアヌ・リーヴスが構えたところに打撃を送り込んでいるような不自然な挙動が垣間見えましたので、修正して頂きたいなという感じです。(偉そうだな)

総評85点(うちハル・ベリー水をジョンは飲んだのか問題による減点-2)

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