「銃夢」の世界が確かにそこにある『アリータ:バトルエンジェル』レビュー

「銃夢」の世界が確かにそこにある『アリータ:バトルエンジェル』レビュー

※微ネタバレ(ストーリーの展開には触れていません)

世界観は原作そのもの


本作『アリータ:バトルエンジェル』の原作に当たる、木城ゆきとさんの人気SFコミック『銃夢』に対する筆者のリテラシーは、「10年以上前に一回全巻通して読んだことがある」程度です。個人的にそこまで思い入れが強いコミックではありませんが、章によってはトラウマになるくらい強烈に記憶に残るエピソードがあったので、一回しか読んでいない割によく覚えています。

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そんな感じに原作に軽くしか触れていない身からすると、初の実写化となった本作『アリータ:バトルエンジェル』は、原作をかなり忠実に再現しているように見えました。空中都市ザレムやクズ鉄町、ローラーボールスタジアムなど、物語の舞台となる世界観の構築に、製作者たちの原作への思い入れを確かに感じ取ることができます。

中身については、全9巻あるコミックスのうち、その前半部、章立てで別れていたエピソードを同時進行することでダイジェスト的にまとめたような印象です。その分やや駆け足になってしまってる感は否めませんが、原作コミックが、同じく海外で人気の高い「攻殻機動隊」のような哲学的風味のあるSFというより、サイバーパンクな世界を舞台にした娯楽バトルアクションといった方がしっくりくる気がするので、映画の、ノリが軽めのストーリーにアクション多めのバランスもそれほど違和感を感じず鑑賞することができます。

「機甲術」と名付けられた体術を使うアリータの殺陣は、予告編を観て期待した以上の出来栄えで、彼女のサイボーグという特性を活かしたハイスピードバトルは、一見の価値ありです。

総じて、続編ありきの話の作り方はさておくと、誰が見ても楽しめるアクションエンターテインメントに仕上がっていると思います。

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希釈されてしまったエグ味

広告のせいか本作の監督をジェームス・キャメロンだと勘違いしている人が多いのが可笑しいですが、本作の監督はロバート・ロドリゲス

ロバート・ロドリゲスといえば、露悪的な趣味のある作風で知られているので、映画のちょっと不必要に感じるグロテスクな描写は監督の趣味によるものだと思われそうですが、原作コミックの方はもっとグチャグチャやってまして(笑)、意外かもしれませんが、映画はあれでもかなり薄まっているのです

グロ描写の話だけでなく、本作は原作の要素をかなり希釈しており、個人的な好みの話をするとそのおそらくは大衆向けのアレンジが、原作にあった尖リやエグ味をスポイルしてしまっており、一度とはいえ原作を知っている身からすると若干物足りないような印象も受けました

例を挙げるなら、アリータを蘇らせるイドは、映画ではただの善意の人ですが、原作では狩りで行う殺人に高揚を感じる病んだところのある人物ですし、アリータらを執拗に狙うグリシュカは、映画ではノヴァの言いなりに動く筋肉バカみたいなキャラですが、本来は酷い出自を持つ心を病んだ孤独な男で、アリータ(ガリィ)との関係にある種のつながりを求めて襲ってくるというキャラクターです。事ほど左様に、原作はバトルが主体ながらも、善人の中に潜む狂気や、殺人鬼の心の奥底にある人間性を描いており、サイボーグの主人公を通して「人間らしさとは何か」を読者に問うつくりになっているのですが、映画からは(現段階では)そういったものはあまり感じ取れませんでした。

続編があるならば、そういった薄味のキャラクターたちを掘り下げてくれれば、より言うことないな、と思います。

総評:78点

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