ヒーロー映画としてこれ以上は望めない傑作『アクアマン』レビュー

ヒーロー映画としてこれ以上は望めない傑作『アクアマン』レビュー

「スペクタクル」がつまった映画

日本に先駆けて公開されたアメリカをはじめとする各国で絶賛の嵐。世界興収も10億ドルの大台を超えて、DC映画興収トップの『ダークナイトライジング』(2012)の10億8000万ドルを上回ることがほぼ確実視されているジェームズ・ワン監督『アクアマン』。鑑賞前のハードルの上がり方としては近年類を見ないくらいのバーの高さになっており、筆者的に2割打者くらいのDCEU(2013年から始まったDC映画シリーズのこと)に課せられたミッションとして、これをクリアすることは至難の業のように思えましたが、鑑賞を終えた今、それは完全な杞憂に終わり、アクアマンは筆者の期待の遥か上を飛んで行きました

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およそ考え得る限りの映像的スペクタクルと、アクションの楽しさを詰め込んだかのような本作。

「観客に今まで見たことがない映像を見せる。」というのは映画監督なら誰もが志すところでしょうが、残念ながら多くの場合その試みは失敗に終わりがちです。CG技術の発展も天井まで行きついた感のある昨今、予算さえあればおよそ表現できない描写はなく、映像の豪華さだけでは目の肥えた観客を驚かせることは難しくなりました。

筆者の私見では、スペクタクル的な演出を、特殊な舞台設定と組み合わせて見せることが重要であって、同ジャンルの映画で例を挙げるならジェームズ・ガン監督『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)の宇宙監獄からの脱獄シーンだとか、ルッソ兄弟の『アベンジャーズ/インフィニティーウォー』(2018)の序盤、サンクタム・サンクトラムを出たトニー・スタークらが遭遇するブラックオーダーの登場シーンだとかは、それを実現できたレアなケースだと思います。

喜ばしいことに、本作のメガホンを執ったジェームズ・ワンは、前作『ワイルドスピード/スカイミッション』(2015)もそうであったように、実際にそういった観客が「見たことがない」と感じるシーンをたくさん作ることができる稀有なセンスの持ち主です。

ネタバレしない程度に具体的に挙げると、アバンタイトル中のアトランナの屋内バトルとか、津波との並走シーンとか、シチリアの屋根シーケンスとか、炎のリングとか、クライマックスの場面とか。挙げてて改めて思ったんですが、この映画、戦闘の起こる舞台立てが悉く気が利いているというか工夫が凝らされていて、いちいち最高でした。「大半が水の中」という実写映画としてそれはそれは厳しい演出上の条件を、あれやこれやの豊富なアイデアで乗り切った製作陣に、心から賛辞を送りたいです。

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文字通り“王道”のストーリー

映画『アクアマン』のストーリーを、洋画ファンに向けて元も子もない言い方をするなら『モアナと伝説の海』(2016)と『ヒックとドラゴン2』(2014)と『ブラックパンサー』(2017)を足して3で割った感じのお話です。インド映画の『バーフバリ』もちょっと入ってるかもしれないですね。

いわゆる貴種流離譚で、これ以上ないくらいシンプルなお話なんですが、主人公が敵を上回る理由を伝説の武器に集約した上で、映画の大半をその武器探しの冒険にしてしまったことが逆にとても良かったと思います。前述した凝った舞台立てもあいまって、どこかインディ・ジョーンズを彷彿とさせる美女同伴の秘宝クエスト。この手の話を嫌いな映画ファンっているのでしょうか。

プロットの構造が非常に似ている『ブラックパンサー』と比較しても、主人公の心理や敵側の論理にめんどくさい揺らぎや破綻が見られず、また人物の演出や台詞がより洗練されているため観客は純粋に物語に集中することができます。これは完全に筆者の見解ですが、ヒーロー映画に現実を反映したような強い政治メッセージは必要ありません。こっちを立てるために向こうを落とす必要はないのですが、個人的には本作の方が圧倒的に好みです。

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ベストな配役

最後に忘れてはならない、俳優陣の好演について。まず何といってもアクアマン役のジェイソン・モモア。シルベスター・スタローン主演の『バレット』(2012)で手斧を振り回していた時から、見事な肉体美から醸し出される「戦士」としての説得力は特筆すべきものがありましたが、とにかく尋常じゃないほどの大画面映え。あちらも俳優になっちゃったので逆に判りにくい例えかもしれませんが、ロック様ことドウェイン・ジョンソンがスマックダウン(プロレス番組)に出ていたときに、画面から目が離せなくなる感覚、彼のカリスマ性と通じるものを感じました。

また、これも皆言うと思いますが、メラ役のアンバー・ハートさんも最高でしたな。どこが最高って、全部が。最近はどれとは言いませんがこの手の大作エンタテインメント映画において、「ヒロイン…なのか君は?」と言いたくなるようなキャスティングも多いのですが、そんなおっさん映画ファンの鬱憤を晴らしてくれるような、純粋に憧れられる女優さん。とにかく麗しい。以上です。

脇を固めた俳優陣も、オーム役のパトリック・ウィルソンをはじめ、バルコ役のウィリアム・デフォー、トム・カリー役のテムエラ・モリソン、アトランナ女王役のニコール・キッドマンとみんな良かったです。『クリード/炎の宿敵』の好演も記憶に新しいドルフ・ラングレンはあまりのハマりっぷりに、最初彼だと判りませんでした。未見の方は是非調べないで探してみてくださいね。

 

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SDCC: New @aquamanmovie trailer released online! #Aquaman #dccomics #BlackManta

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私見ではアメコミ原作のヒーロー映画として、おそらくはこれ以上を求めるのは難しいのではないか、というほどの高みに達した『アクアマン』。惜しむらくはこの映画が、『バットマンvスーパーマン』や『スーサイドスクワッド』の前に公開されていたらどうであったかと、ベン・アフレックのバットマン降板のニュースなどに触れて思いますが、続いて4月に公開を控える『シャザム!(仮)』もクオリティに期待が持てますし、DCEUファンが肩身をちょっと狭くする時代は本作を持って終わったと言えるかもしれません。個人的には、依然雲行きの怪しいジャスティスリーグ続編はひとまず置いといて、アクアマンバースを広げてもらえれば大満足です。

とにかく大画面で観ないと始まらない類の映画ですので、是非できるだけ環境のいい劇場でご覧ください。

総評:96点

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