【おススメ漫画1】最高のSFアクションジュブナイル!葦原大介『ワールドトリガー』を読んでるかい?

【おススメ漫画1】最高のSFアクションジュブナイル!葦原大介『ワールドトリガー』を読んでるかい?

近年の少年ジャンプ人気を支えてきた『鬼滅の刃』、『約束のネバーランド』が相次いで完結しましたね。どちらも少年漫画として素晴らしい作品でしたが、世の中すっかり「鬼滅ロス」「約ネバロス」だそうで、巷では「読む漫画なくなった。」とか「もう何を楽しみに生きていったらいいか判らない。」といった落胆の声が少なからず囁かれているとか。聞き捨てならない見解です。ジャンプに限った話をしても、大黒柱のワンピースは健在ですし、呪術廻戦やDr.STONE、チェンソーマンだってあるじゃないか、そして何より『ワールドトリガー』が現在、葦原先生復活後最高潮の盛り上がりを見せているというのに何をガッカリすることがあるというのでしょうか。

本稿では、個人的にジャンプ史上最高のバトル漫画だと思っているこの『ワールドトリガー』をご紹介、世界観や見どころを解説します。ネタバレはほとんどありませんので未読の方も安心してお読みください!

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ワールドトリガーってどんな作品?

『ワールドトリガー』は、週刊少年ジャンプで2013年に連載開始した葦原大介による少年漫画です。ジャンルはSFアクションとてでもいいましょうか。前述の『約束のネバーランド』と同時期にスタートし、連載開始当初は人気も若干低迷気味でしたが、同漫画が謳う「遅効性SF」というキャッチフレーズの通り、設定の緻密さや図抜けたバトル演出が徐々に読者を惹きつけ、やがてジャンプ屈指の人気作品へと成長します。ところが2016年11月、かねてから体調の不良を訴えていた葦原先生がついにダウン、『ワールドトリガー』は無期限の連載中断を余儀なくされてしまいます。

葦原先生の倒れた理由や、待てど暮らせど来ない続報に連載再開は叶わぬ夢と思われましたが、ついに2018年10月、中断から実に2年間の空白をおいて連載が再開。5週間だけ従来通り週刊少年ジャンプで連載された後、葦原先生の体調を考慮して『ワールドトリガー』は月刊ジャンプSQへ移籍。2020年6月現在、絶賛連載中となっております。

世界観やあらすじ(ご存知の方は飛ばして下さい)

主人公の一人、三雲修(みくも おさむ)が暮らす架空の都市・三門市。日本のどこにでもある地方都市のようにみえるこの街では、頻繁に「門(ゲート)」という異世界からの扉が開き、そこから「近界民(ネイバー)」と呼ばれる怪物が出現して街や人を襲います。この脅威に対抗すべく組織されたのが「ボーダー」と呼ばれる私設武装集団で、主人公の修はそのボーダーの新米隊員です。ワールドトリガーの世界では、人間にはトリオン器官という視認できない内臓が存在し、そこからトリオンというエネルギーを生み出しています。ボーダーは、この人間が生来持つトリオンを「トリガー」という技術で様々な武装に変換して戦います。このトリガーこそがネイバーに対抗しうる唯一の手段であり、トリガーの強さは、その人間が生みだすことができるトリオンの量に比例します。何やらややこしそうですが、ドラクエのようなRPGに例えると、トリオンはMP(マジックポイント)、トリガーは魔法、ネイバーは魔法しか効かない敵ってな感じです。

修は日中普通の高校生として生活しているのですが、ある日彼の通う高校に、空閑遊真(くが ゆうま)と名乗る不思議な少年が転校してきます。飄々とした態度で絡んでくるクラスの不良をあしらい、放課後包囲される遊真。その時彼らの眼前で「門」が開き巨大な虫型ネイバーが出現します。遊真を心配してついて来た修は、ボーダーの一員としての正体を晒し戦闘を開始しますが、新米な上に、もともと持っているトリオン量が低いため勝負にならず圧倒されてしまいます。万事休すと思われたその時、遊真が一撃でそのネイバーを斬って倒し、修に自分が「門」の向こうから来たネイバーだと告げます。

遊真は何者か。「門」の向こうの世界には何が待っているのか。『ワールドトリガー』は修と遊真、そして後に登場する2人のメインキャラクターを軸に、彼らのボーダー戦闘員としての成長を描きながら様々な謎に迫っていくジュブナイル作品です。

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ワールドトリガー3つの特長

前段で個人的に『ワールドトリガー』を史上最高のバトル漫画だと思っていると書きました。その根拠を3つのポイントに分けて解説してみます。

1. 本当のチーム戦を描いている

異世界から異形が襲来して、登場人物が授かった特殊能力を使ってそれらとの戦いに挑んでいく。ワールドトリガーの話の骨格は特段珍しいものではなく、むしろ近年の人気少年漫画の王道とも言うべきもので、筆者が思い付くだけでも古くは平井和正の『幻魔大戦』から、ジョジョやら幽遊白書やら、現在連載している『呪術廻戦』、『僕のヒーローアカデミア』、『青の祓魔師』等々同じジャンルの作品は引きも切りません。その中にあってワールドトリガーは、同ジャンルの作品が殆ど手法として選んでこなかった「チームVSチーム」の戦いを描き、特色とすることに成功しています。

これまでの異能バトル作品にも、敵が集団として登場することは多々ありましたが、それらが一堂に会し、同じフィールドで同時にそれぞれの能力を活かしながらチームメンバーが協力して、刻々と変化する戦況に応じて戦うという作品はあまり憶えがありません。チームで登場してもだいたいが1VS1~2のマッチアップを局地で繰り広げるという展開が殆どだったはずです。原因はキャラクターの「個としての強さ」表現に味方が邪魔になることや、ジャンルの特徴である「異能」の解説に時間をとられ複数だとガチャガチャしてしまうなど色々考えられますが、ワールドトリガーはこのチーム戦の要素に深く踏み込み、チームVSチームのみならず、3つのチームの三つ巴の戦いなども見事に描き切ってしまっています。

こういったチーム同士の戦いというと、別ジャンルのスポーツ漫画(『スラムダンク』『ハイキュー!!』『アオアシ』など)が得意とするところで、味方のキャラクター同士が相互理解の下に協力して事を成す「熱さ」が大きな魅力ですが、ワールドトリガーは「異能バトルもの」でありながら、このチームスポーツ漫画の主要素も取り入れて作品に昇華しています。2つのジャンルの良いとこどり、故に魅力も2倍というわけです。お話の展開もネイバーとの命懸けのバトルと、ボーダー内の練習試合が交互に描かれるため、「脅威だった敵が、味方にするとこんなに頼もしく、頼もしかった味方が今度はこんなに強い敵に。」ってな具合にマッチアップに二通りの視点が用意されるのも、多彩なチーム、大勢のキャラクター理解に一役買っています。

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2. ご都合主義を排除している

「クリリンのことかーっっ!!!」

ドラゴンボールがそうという訳ではありませんが、異能バトルものの少年漫画では、常々感情が高まり気合が充満すると眠っていた力が目覚めてキャラクターがパワーアップ、それまで劣勢だったのにいきなり大逆転、「その技いつ覚えたのーっ!?」とツッコミたくなるような大技を繰り出して敵を圧倒なんてことが、本当によくあります。ロジックを放棄して勢いで押し切るこういった手法、筆者も好きな作品なので引き合いに出すことを悪くは捉えないで欲しいのですが、大人気のまま完結した『鬼滅の刃』も、こと戦闘に関してはこういった描写が多かったように思います。

『ワールドトリガー』のバトルでは、このような「ご都合主義展開」が殆どありません。戦いの趨勢を決める能力や新技、戦術などには、必ず事前に平場での解説や紹介があり、読者が「後出し」と感じることがないよう緻密に構成が組み立てられています。全然関係ない場面でサラっと紹介して、それをシレっと重要な伏線にしてきますので、後から気付くことの方が多いですが、キャッチフレーズが「遅効性SF」ですので、まさに作者の思うつぼというわけです。ちなみに伏線については戦闘後親切に解説してくれますので、「どこで出てきた?」なんて探さなくてもいい安心設計です。

主人公の三雲修を戦闘の才能が低いままにしているのも、作戦がなければ勝てない、つまりロジックがなければ勝てないというワールドトリガーの作品世界を象徴しています。丹念に伏線や解説、キャラクター同士の人間関係を描き積み上げるため、作品を評して「展開が遅い」という向きもありますが、単行本の何巻かに一度訪れる物語上とても重要な局面で、「そう来たか!」と出し抜かれる快感は代えがたいものがあります。

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3. 群を抜くバトル演出と空間説明力

みどころの1で取り上げた多人数が入り乱れるバトル。なぜ先人たちはあまり描いてこなかったのかというと、単純にフィールドの構造が、説明しなくてもスポーツの名前で読者に伝わっているスポーツ漫画とは異なり、市街地や自然の中で戦うことになる異能バトルものでは、周囲の構造物の配置、キャラクターの位置と進む向きを説明し続けなければならないという大きな問題を抱えているためという見方もできます。

この条件下では1VS1の戦いを描くのでさえ大変で、何なら戦闘が始まるとどこを見ても同じような野原とか森の中とかに移動して、まるで書き割りの前で戦っているようなバトル漫画が多い中、ワールドトリガーの戦闘はほとんど市街地で行われ、読者に誰がどこにいるか混乱させることなく多人数の混戦を描き、地形に配置されたオブジェクトも伏線として惜しみなく使うとなると、これらの情報量を紙面に落とし込む葦原先生の情報整理力、空間説明力は尋常じゃありません。技術的にはふんだんに挿入される俯瞰のコマと、キャラクターの視点移動に合わせたコマ割りがなされている、くらいのことは判るのですがバトル自体のスピード感を崩さず、なおかつ見栄となるかっこいい大ゴマもバッチリ決めるとなると、技術を超えた常人離れしたセンスが要求されるでしょう。なんとなくMCUで知られるルッソ兄弟や、『キングスマン』のマシュー・ヴォーンといった現代を代表するアクション映画編集の巨匠が思い出されます。

ボーダー本部にいて、無線でチームを統率する指令役の「オペレーター」を配置したのも発明ですね。紙面だけではどうしても伝わりにくく、仕方なく読者に説明しなければならない場面でも不自然にならずに解説を挿入できるようなつくりになっています。

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最後にお願い

現在思い入れが一番強いといっていい作品の為、大変長くなってしまって申し訳ありませんが、ここまで付き合って頂いたのでついでにもう少しだけ。

ここまで読んで、ワールドトリガーを手に取って見ようと思ってくれた読者の方にお願いです。

「遅効性SF」という作品自体が謳うキャッチフレーズを、読む前にもう一度胸に刻んでください。

個人の印象ですが、正直ワールドトリガーの単行本1巻と2巻の途中までは、世界観の説明に終始し、この作品の最大の魅力である「多人数バトル」も登場しません。人によっては「悪くないけどありきたりかな?」と思う人もいるようです。2巻の終盤、三輪隊の登場をもってようやくワールドトリガーがその片鱗を見せはじめ、6巻から始まる「大規模侵攻編」で一気にトップギアに入ります。そこから先は僕がもう大きなお世話なことを言わなくても大丈夫だと思いますが、せめて2巻、いや3巻までは読んでみてください。

現代を代表するといって決して過言ではない少年バトル漫画『ワールドトリガー』。触れずにいるのはもったいない、2020年にはアニメの2期も放映されるとのことですので、この機会に是非読んでみてくださいね。

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