今回は珍しくネコちゃんの話。
それも不沈艦ならぬ不沈「猫」の話である。
白黒猫のオスカーは第二次世界大戦中、軍艦上で飼われていた猫だ。
乗船していたドイツ及び英国の軍艦、つごう3隻が沈没の憂き目に遭ったにも関わらず生き永らえたという、数奇な運命の元に生きた猫である。
一隻目 戦艦ビスマルク
最初は独海軍の高速戦艦ビスマルクに乗っていた。
ビスマルクは1941年5月出航直後に勃発した英海軍との戦闘に敗れて沈没したのだが、オスカーは同戦闘に参加していた英国の駆逐艦コサックに救助された。
以降しばらくコサックに厄介になる。
戦艦ビスマルク(Bismark) 就役1940年/満載排水量50,000トン/全長250メートル/幅36メートル/最高速力30ノット/航続距離9,300海里(16ノット)/乗員2,100人+猫1匹
二隻目 駆逐艦HMSコサック
オスカーを救助して5カ月後、コサックはジブラルタル沖においてドイツのUボートの攻撃により大破。
ほどなく爆発して轟沈するが、猫は救助された。
こうなるとオスカーはもう有名になり、「不沈のオスカー(Unsinkable Oskar)」と綽名されるようになった。
オスカーは二度目の救助後、英国の航空母艦アークロイヤルに引き取られた。
このアークロイヤルから発艦した攻撃機がビスマルク撃沈に一役買っていたところが因縁めいてはいる。
駆逐艦HMSコサック(Cossac) 就役1938年/満載排水量1,900トン/全長110メートル/幅11メートル/最高速力36ノット/乗員220人+猫1匹
三隻目 航空母艦HMSアークロイヤル
やっぱりと言うべきか、コサックが沈んだ同じ年の11月、空母アークロイヤルは地中海マルタ沖にて、こちらもUボートの雷撃により大破した。
こちらは大きく傾いた状態のままジブラルタルへのえい航が試みられたものの、やがてゆっくりと沈没する。
航空母艦HMSアークロイヤル(Ark Royal) 満載排水量28,000トン/全長240メートル/幅29メートル/最高速力31ノット/航続距離6,700海里(16ノット)/搭載機数60/乗員1,600人+猫1匹
オスカーは今度は駆逐艦HMSリージョンとHMSライトニングによって展開された救助活動により無事一命をとりとめた。
しかし、アークロイヤルが沈没した時点で、この猫の洋上での生活には終止符が打たれることになっていた。
不沈なのはオスカーだけであり、この猫を乗せる側の軍艦にとってはもう縁起の悪い猫となってしまっていたからだ。
その後はベルファストの水兵の家で余生を送り、1955年に天寿を全うした、ということである。
ちなみに最後のオスカー救助に関わった二隻の駆逐艦リージョンとライトニングは1942年と43年に相次いで海の藻屑となった。
つまりオスカーが関わった軍艦5隻すべて沈没してはいるのである。ニャンということだ。
以上のUnsinkable猫の話については、そんな偶然などUnthinkableとする向きもあるが、本稿では特別な運命の猫のままにしておこう。
今回のような猫と人間の関りについて研究する学問を、ニャンコロジーと言うとか言わないとか。