【SONYとディズニーが揉めている?】スパイダーマンのMCU離脱報道を受けて

【SONYとディズニーが揉めている?】スパイダーマンのMCU離脱報道を受けて

アメコミ映画ファンを震撼させた今週(2019年8月第4週)のトム・ホランド版スパイダーマンのマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)離脱報道。

ご存じない方の為に、この騒ぎを要約しますと、ディズニーとソニー・ピクチャーズが、今後のスパイダーマン映画に関する契約をめぐって対立。ディズニーは次作以降のスパイダーマン映画について、出資割合が50:50となる新契約を求めている一方、ソニーは現行のディズニーの取り分が「公開初日収益の5%」という利益配分を維持したい考え。ディズニーはソニーが新契約に応じない場合、MCU全体の統括プロデューサーであるケビン・ファイギを、今後のスパイダーマン作品に関わらせないことを通告したとのこと

シリーズの頭脳ともいうべきケビン・ファイギ抜きのMCU作品は考えにくく、スパイダーマンが本シリーズから離脱する可能性もあるのではと、心配したファンを中心に、ちょっとした炎上騒ぎになっているというわけです。

この件に関して、20年来のイチアメコミファンとして、現時点での印象などを書きます。

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スパイダーマンの映画化権

2016年公開のMCU作品『シビルウォー:キャプテン・アメリカ』でのスパイダーマン合流が報じられた際に散々こすられた内容ですが、マーベルコミックスのキャラクターであるスパイダーマンの「映画化権」は、2019年現在もソニー・ピクチャーズが保有しています。あくまで「映画化権」だけですので、コミックスのスパイダーマンはもちろん、スパイダーマン関連商品の版権は、マーベルの親会社であるディズニーが保有しています。

2000年代初頭、マーベル・コミックの経営が傾いていた時代、マーベルは自社のIPの各種ライセンスを切り売りすることで企業として延命を図っていたのですが、マーベル・コミック最大の人気者スパイダーマンのライセンス(当時はグッズの版権も)もご多聞に漏れず、この時ソニーに買収されたわけです。

時は流れて2010年代。ディズニーが後ろ盾となり、MCUは世界規模の大成功、マーベルがすっかり息を吹き返したことは読者の皆様もご存知かと思います。2018年ディズニーが20世紀フォックスを買収したことで、ソニーは現在、マジックキングダム以外でマーベルキャラクターのライセンスを持つ唯一のスタジオとなりました(20世紀フォックスは、「ファンタスティック・フォー」と「X-メン」の権利を 保有していました)。

ディズニーとしては、マーベルがもともと保有しているキャラクターの全てのライセンスを手元に置きたい、中でもマーベルで名実ともにナンバーワンの人気を誇るスパイダーマンの権利をなんとかして取り戻したい(使用料を払うという形でグッズの版権は買い戻しています)というのが本音でしょうが、ソニーもわざわざ大枚はたいて手に入れた金の卵を産む鳥を、完全に手放す気など毛頭ないでしょう。

で、ソニーは日本の企業、アメリカ国民からすれば云わば外様ですので、今回の騒ぎを受けてアメリカ国内では「ソニーはマーベルへスパイダーマンの権利を売り戻せ。」とか「スパイダーマンがMCUから抜けたらソニー製品をボイコットする!」とかそんな感じで盛り上がってるというわけです。ソニーの肩を持つわけじゃありませんが、苦しいときに手を差し伸べてもらっておいて、調子よくなったら返せってのはちょっと虫がいい話に聞こえますがね。

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困るのはディズニー側では?

報じられているように、仮にプロデューサーからケビン・ファイギが降りて、その影響でもしトム・ホランド版スパイダーマンがMCUから距離を置くようになったら、被害が大きいのはソニー側、ディズニー側どちらでしょう。

僕はディズニー側の方がより困るのではないかと考えています。

これはただの個人的な見解なのですが、マーベル・コミックは1,000を優に超える多士済々のヒーローを保有していますが、その中でもMCUのような劇場映画シリーズの「顔」、看板になり得るキャラクターはというと、その数は両手の指で数えられるほどにぐっと絞られます。(ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのように、原作がマイナーでも人気がでたキャラクターはいますが、あくまでマス向けの「マーベル映画」の看板としてならという意味です。)マーベルも近年時世に阿った色んな人種性別のキャラクターをリリースしていますが、コミックや関連商品の売り上げを見るに、主軸となれそうなキャラはそう増えていません。

で、MCU近作をご覧になった方はお判りの通り、MCU本編からアイアンマンとキャプテン・アメリカというアベンジャーズの二大看板がひとまず引退、マーベルの下に戻って来たX-MENのウルヴァリンもシリーズを通して主役を張れる器ですが、こちらも合流には世界観の導入をせねばならず年単位の時間がかかりそうです。マーベル最古のヒーローチームであるファンタスティック4は、実写化が二度にわたってイマイチな結果に終わっており、こちらも構想に時間がかかりそう。となると現在、映画シリーズに求心力を生む存在として、人気実力ともにアメコミ界でも一位二位を争うスパイダーマンの存在は欠かせないはずなのです。

マーベルのライバル、DCはスタートこそちょっと失敗した感がありましたが、『ワンダーウーマン』を皮切りに立て続けのヒット作で持ち直し、2021年にはとうとうド本命であるバットマンを新キャストでリブートしてきます。打つ手を誤れば、今をときめくMCUとはいえ勢力図が逆転することはあり得ない話ではありません。もともとコアなコミックファンの割合は、マーベルよりDCの方が若干多かったですしね。

過日のサンディエゴコミコンで発表されたフェイズ4以降のMCUのラインナップ、魅力的なタイトルがあるにはありましたが、ちょっと小粒な印象を受けるのもまた事実。新キャラクターや世界観のつなぎ役としてもスパイダーマンはMCUに絶対残しておきたいはずです。

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スパイダーマンは別格

それではもう一方、ソニー側のスパイダーマンがMCUとの関わりを失ってしまった場合のダメージはいかほどになるでしょう。

これは、そんなに大きくないと、少なくともソニー側は最悪そうなってしまっても仕方ないと考えているのではと僕は予想します。

トム・ホランド版スパイダーマンと最も関わりが深かったMCUキャラクターといえば、アイアンマンことトニー・スタークですが、彼との関係も現在公開中の最新作「スパイダーマン: ファー・フロム・ホーム」で一区切り。物語のタイミング的に、ハッピーやニック・フューリーなどのMCUキャラを次作から登場させることができなくても、違和感のないつくりにすることは可能でしょう。

また、『スパイダーバース』 や『ヴェノム』のように、マーベルスタジオが絡まず、ソニー主導で製作したスパイダーマン映画の相次ぐ大ヒットでソニーはこのコンテンツの扱いに自信を深めていることと思います。トム・ハーディーのヴェノムと、トム・ホランドのスパイダーマンが共演ともなれば、MCU最新作に負けない話題作となることは間違いありませんしね。ジャレット・レト主演のモービウスにも、スパイダーマンを登場させることができるならそれに越したことはないでしょう。

調子に乗って極端なことを言いますが、スパイダーマンの人気はマーベルのヒーローの中でも完全に別格なのです。ヴェノムやブラックキャットなどの関連キャラクターを含めれば、スパイダーマンという題材一つで、その人気は他のマーベルキャラクターを全部合わせたものと、充分対抗できるほどなんですね。言って見りゃ多次元のスパイダーマンが大集合するスパイダーバースなんていう荒唐無稽な設定が成立するのも、スパイダーマンがマーベル随一の知名度を誇り派生キャラクターを数多く持っているがゆえです。ソニーがマーベルと交わした映画化権の細かい内容は明らかにされていませんが、噂ではソニーはスパイダーマンに関わる900ものキャラクターの権利を保有していると言われていますので、オリジナルの世界観の構築に不自由はしないでしょう。MCUの力を借りて、キャラクターのリブートに完全に成功した今、ソニーがあえて独自の道を行く覚悟をしたとしてもそれほど不思議はありません。

故にこの騒動、結局はディズニー側が折れるしかないのではないかと希望的観測も含めて僕は予想します。まだ両者の話し合いは継続しているようですし、ジェームズ・ガンの解任再雇用の経緯を見るに、結局はみんなが納得する形になるような気はしますが、シリーズを楽しみにしているMCUのファンのためにも、さらにはメジャーなエンターテイメント作品が猫も杓子もディズニーの独占になってしまうのを避けるためにも、ディズニーはあまり欲をかかず、ソニーには踏ん張って欲しいです。

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