前作との違い
※ほぼネタバレなし
本作は2015年に公開されスマッシュヒットとなった『ボーダーライン』の続編にあたります。
ベニチオ・デルトロ、ジョシュ・ブローリンら主要キャストはそのままに(エミリー・ブラントは出演してません)、監督はドゥニ・ヴィルヌーヴから、イタリア人のステファノ・ソッリマへバトンタッチされました。
ステファノ・ソッリマ?聞いたことないなあ、そう読者が思われるのも無理はありません。
イタリア本国でのキャリアこそ長いものの、日本で公開された監督作は監督の近作『暗黒街』(2017)のみで、その公開規模もかなり限定されたものでした。
そんな「新鋭」に、今やハリウッドを代表する作家となった『灼熱の魂』『プリズナーズ』、そして『ブレードランナー2049』の、あのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の代わりが務まるのか、懐疑的な見方がほとんどではないかと予想しますが、筆者は縁あってソッリマ監督の前作『暗黒街』を鑑賞、レビュー記事を執筆させて頂いたことがあり、その『暗黒街』が端的に言って大変出来がよかった(偉そうですいません)こともあって、あまり心配していませんでした。
その上本作の脚本は前作に続いて、筆者が今現在一番信頼している男、テイラー・シェリダン。
『ボーダーライン』、『最後の追跡』(NETFLIXオリジナル映画)『ウインドリバー』(2018)の「フロンティア三部作」で一躍脚光を浴びている監督・脚本家です。ノワールを得意とする俊英と、監督以外は前作とほぼ同じ座組、相性が悪いはずないとの筆者の期待は、無事、裏切られることなく結実していました。
重苦しく、そしてカラカラに乾いている
予告や公式のあらすじを読むと、前作で鮮烈な印象を残したベニチオ・デルトロ扮する米軍の特殊工作員アレハンドロが、任務のなりゆきで少女と二人きりになって、少女の警護をしながら逃避行するありがちなハリウッド映画的展開なのかと思いきや、そうは問屋が卸しません。
もはやこのシリーズの売りといっていい胃が痛くなるような重苦しさと、肌がひりつく緊張感は前作以上、唐突に吹き荒れる過激な暴力描写、予想もしない展開の連続、そしてここで終わるんかい!という突き放したラスト。
またしても観客は誰に感情移入することも許されないただの「傍観者」でいることを徹頭徹尾強いられます。
前作と比較して、冒頭よりアレハンドロにスポットライトが当たっている分、前作ラストで判明する彼の境遇や戦う理由や少女との邂逅から、よりエモーショナルな話運びに持っていくこともできたはずですが、あえてそうしていません。
「主人公側に物事が有利に運ぶ」ということがなく、あくまでフェアにドライに物語は進みます。バイオレンスに関して、前作以上に衝撃的な描写がある分、観ていて心が冷たくなる印象も前作以上かもしれません。
個人的要注目ポイント
何より今作は、前作でも登場したアレハンドロの上官(雇い主)、マット(ジョシュ・ブローリン)の成分が非常に高めだということ。
彼の第一声は画面上後ろ姿で発せられるのですが、あまりに「サノス」(マーベルのキャラクター。インフィニティーウォーではジョシュ・ブローリンが声およびモーションキャプチャーを担当している)感が強すぎて笑ってしまうかもしれません。
手段を選ばず自らの正義を貫こうとするところもソックリ。ジョシュ・ブローリンの出演映画なんて今まで何本も鑑賞しましたが、やはり『インフィニティーウォー』の影響はとても大きいようです。そんな彼の雄姿が、今回はたっぷり全編通じて楽しめます。
そしてジェフリー・ドノヴァン。ドラマシリーズ『バーン・ノーティス』で主人公マイケル・ウェスティンを演じた彼が、サノスの右腕として大活躍(前作にもちょっと出てた)。非常に好きだったドラマゆえに、彼がステップアップしてスクリーンで見れるのは嬉しいものです。話は横道にそれますが、この『バーン・ノーティス』、解雇された元スパイがあちこちから命を狙われるのを、知恵と持ち前の戦闘力で切り抜けるとても楽しいアクションコメディで、共演もガブリエル・アンウォー、サム・キャンベルと一流を揃えているのに日本では、吹替をルパン三世の声をあてている栗田貫一が担当したせいか(予告編がつまらなそう)、ビックリするくらい知っている人が少ないのです。未見なら是非。
この作品は、まさしく傑作であった前作の正統続編。難仕事をやってのけた製作陣に拍手を送ります
84点