『白鯨』の捕鯨船
時は幕末。右手に条約、左手にピストルの米国ペリー艦隊が、自国の捕鯨船の補給基地設営を要求するため、お呼びでないのに浦賀に押しかけて来た頃。
この米国の行動は自国の近海のマッコウクジラを獲り尽くしてしまった為だが、ヘルマン・メルヴィルの『白鯨』はちょうどこの頃の、ハワイと日本の間の鯨が豊富な海域を舞台にした小説である。
世界中誰もが読んだかどうかは判らないが、とにかく皆がよく知っている唯一の捕鯨小説である。
少年時代に、児童版を読んで怖い話だな~と思った記憶があるが、それはさておき筆者の関心はこの物語に登場する船である。
白く巨大なマッコウクジラ、モビー・ディックに片足を奪われ、報復を誓うエイハブ船長が駆った捕鯨船の名はピークォド号(Pequod)という。帆柱三本の帆船だ。
頭突きが得意な巨大鯨に狙われたピークォド号。なんとも運に見放された船ではあった。
当時の米国の捕鯨船はみんな同じような恰好をしていた。ピークォドもその標準から漏れない。
ただピークォド号はエイハブ船長の復讐心の現われとして、船の部品、例えば舵輪にはマッコウクジラの歯や骨が使われていたというし、船尾に近い甲板には、そこは船長が立って指揮する場所であるが、彼の義足を固定するための穴が何か所も開けられていた。
船そのものがエイハブ船長の体の延長であったわけだ。
ちなみに船名となっているピークォドは、マサチューセッツ州に存在したアメリカ原住民の名前から採ったという。
マッコウクジラの頭突き
マッコウクジラとヤギの遺伝子組成は驚くほど似ているそうだ。
道理でどちらも頭突きが大好き。
でも実際のところ、マッコウクジラは自分の体長の数倍ある帆船を頭突きによって沈められるのであろうか?
この問題に、米、英、豪、そして日本の学者が大真面目に電子石頭じゃなかったコンピューターを使って共同研究した結果…。
多分可能!という答えを得たそうだ。
成長して個体によっては20メートルにもなるオスのマッコウクジラの頭部は、なんと体長の30%、体重の25%にも達する。
頭部の大部分は筋肉だ。
マッコウクジラのオスは、メスを巡って他のオスと頭突きの決闘を行うという。
怒らせてしまうと相手が船であっても攻撃する場合が実際にあるそうだ。
米国の捕鯨帆船エセックスが1821年にマッコウクジラの体当たりによって沈められている。
『白鯨』はこの実話を下敷きに書かれたのだそうだ。
余談
マッコウクジラの排せつ物に含まれることのある結石は、化粧品の原料となるので非常に高価で取引される。
たまに海岸に打ち上げられることのあるこのウ〇〇、じゃなかった石を拾った人が何百万円も手にしたとか。
ウンの良い人もいたものだ。