トイビズ版とハズブロ版の違い
さてそんなわけで、2006年にマーベル・エンターテインメントがハズブロと契約して以降のトイビズは、屋号をマーベル・トイズへ変更し、マーベルキャラクター以外(コナン・ザ・バーバリアンとかジャッジ・ドレッドとか)のフィギュアを販売したりしていましたが売上は低迷、あっという間に当該玩具部門は縮小され、2007年末にはWebサイトを閉鎖、実に16年間もの長きに渡ってマーベルのキャラクターフィギュアを作り続けてファンを楽しませてきたトイビズの歴史は、こうしてひっそりと幕を閉じたわけです。
タイトルからお察しの通り、筆者はこの今は亡きトイビズ時代、それも香港のトイビズ・ワールドワイドが生産したマーベルレジェンドに一方ならぬ愛着を持って収集活動をしているわけですが、誤解しないで頂きたいのは何も懐古趣味でそうしているわけではなく、単純に玩具として、またはコレクターアイテムとして素性が良いと感じる部分が多いからなんですね。
ちょっと同キャラ商品を例にとって紹介してみます。ご存知ウルヴァリン。
左がハズブロ版、右がトイビズ版です。画像では分かり難いかもしれませんが、トイビズ版の塗装はいい意味で非常にクドい。ハズブロ版がさっぱりして見えます。
筋肉はともかく血管の青筋と、細かく描きこまれた腕毛。
男性キャラの顔の作り込みは執念すら感じます。
最近は街でマーベルのロゴ入りアイテムを身に付けている女性をよく見かけるようになりましたが、そういったアメコミ文化そのものがポップさとは縁遠かった時代の産物といえます。また細かいところですが殆どのトイビズ版レジェンドは、手の指と、つま先が可動します。このおかげでより様々なポーズがつけやすく、また支持がなくても自立しやすいという特徴があるんですね。
次に「マーベルレジェンド」ならではの要素、何体か買うと付属しているおまけパーツで完成するビルドフィギュアを比べてみましょう。
こちらがハズブロ版のビルドフィギュア。通常のフィギュアよりひと回り大きく迫力は十分。右がドルマムゥ、左がオンスロートというヴィランです。
そしてこちらがトイビズ版のビルドフィギュアです。
いかがです?どうかしてる大きさでしょう?このサイズ可動範囲は通常版と遜色ありません。
この密度の塗装に、優れた可動範囲と接地性。そしてどっちがメインだか判らないオプションと、これだけ揃って15年くらい前の話ですが1体1,000円台という価格で販売されていたのです(本国アメリカでの小売価格は8ドル)。前編でマーベルレジェンドが集めやすい価格云々と書きはしましたが、現行レジェンドが1体3,600円からしますので、この点だけとってみても筆者を始めとするコレクターが昔を懐かしむのも無理ないと思いませんか?シリーズ全て購入しても1万円を切る価格で、そのうえ上の画像のようなビルドフィギュアまでついてきたのです。いい時代でした。
ただこのトイビズ版マーベルレジェンドにも看過しがたい弱点があるにはあって、それが翻ってハズブロ版の長所ともなっているわけですが、とにかく女性キャラの造形は酷いものでした(好きな人いたら申し訳ない)。設定上美人で有名なX-MENのサイロックというキャラをごらんください。
チェンジでお願いします!
トイビズ版はムキムキのおっさんキャラに対しては異常なほど造形と塗装を作りこんでいるのに、この適当な感じ。デザイナーは女性キャラにあまり興味がなかったのでしょうか。その点ハズブロ版は時代が後発なこともありますが、3Dプリントとデジタル彩色技術の発達もあって、女性キャラだけでなく実在の俳優が演じたMCUキャラの「顔」のクオリティーが年々向上し、トイビズ版にはなかった幅広い層の支持を得るに至っています。
こちらは『マイティ・ソー:バトルロイヤル』に登場したケイト・ブランシェット演じるヘラのハズブロ版レジェンドです。顔の再現度という点で、個人的に近年のレジェンドで最も出来が良いと思います。
マーベルキャラクターは「人間」か
人形の「顔」の話で思い出したのですが、トイビズのフィギュアについてはちょっと面白い逸話があります。
アメリカの国際貿易法ではアクションフィギュアの関税は、人間を模った「人形(dolls)」と、人間ではないものをモチーフとする「おもちゃ(toys)」とで二分しています。1990年代トイビズは自社製品の生産を中国等でしていたため、フィギュアを国内で販売するには関税を支払う必要があったわけですが、「人形」の方が「おもちゃ」よりも税率が高かったため、トイビズ社は、自社で製造販売するマーベルキャラクターのフィギュアは「人間ではない生物」をモチーフにしているため「人形」の税率の適用は不当であるとして連邦政府を相手取って訴訟を起こしました。
訴えを受けて連邦国際貿易裁判所は製品を精査、2003年にトイビズ社の訴えを認めて、それまでに社が納付した税金の過払い分の償還を決定しました。これは言い換えれば連邦政府と、マーベル(トイビズの親会社)が一緒になって、「マーベルキャラクターは人間ではない」と規定したということになります。
衝撃を受けたのは当時のアメコミファンで、マーベルの看板タイトルのスパイダーマンやキャプテン・アメリカなどはご存知の通り特殊能力を持っているだけの「人間」ですし、X-MENなどは、ミュータントして生を受けたキャラクターが自らの「人間性」について葛藤する姿が描かれるストーリーだったので、ファンにとってこの決定はキャラクターの背景を完全に無視した、いかにも功利的で短絡的なものに見えたわけです。
MCUが隆盛を極め、またマーベル自体がポリティカルコレクトネスの旗振り役となった現在、上記のような裁判沙汰は二度と起こり得ないと思いますが、会社に歴史あり、マーベルも綺麗ごと言ってられない時代があったと、まあそんな感じのエピソードです。