【NETFLIXオリジナル映画】クリス・ヘムズワース主演『タイラー・レイク/命の奪還』レビュー

【NETFLIXオリジナル映画】クリス・ヘムズワース主演『タイラー・レイク/命の奪還』レビュー

『タイラー・レイク/命の奪還』レビュー

ページの後半にネタバレ部分あります。該当の段落前に注意書きあります。

あらすじ

誘拐された麻薬王の息子を救うため、バングラデシュに向かった傭(よう)兵。だが、金のために請けた任務が、いつしか過去と向き合う自分との戦いへと変わっていく。(NETFLIX公式ページより抜粋)

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肉体派の本命来たる

まずはバトルアクション俳優として本作にて完全に覚醒した感のあるクリス・ヘムズワース氏にお祝いの言葉を述べさせてください。

『ワイルドスピード』のドウェイン・ジョンソンは47歳。

『トランスポーター』のジェイソン・ステイサムは52歳。

『ジョン・ウィック』のキアヌ・リーヴスは55歳。

主役級俳優の高齢化が進むハリウッドにおいては、永らく「お年頃のバトル系アクションスター」の出現が待たれていましたが、本作にて大人気俳優のクリス・ヘムズワース御年36歳がその地位を襲名するにふさわしい人材であることを自ら証明しました。

かねてから彼が持つ素晴らしい肉体は好事家ならずとも、多くの映画ファンの知るところではありましたが、今まで彼が演じた役どころで戦ってきた相手といえば、宇宙人とかダークエルフとか、緑の巨人とか白いクジラとかそんな感じのクリーチャーばっかり。

長らく一時代を築いたマーベル・シネマティック・ユニバースで看板キャラクターを演じていたせいか、クリス・ヘムズワースのアクションというとどこか「イロモノ」感が拭えず、上記で並べたような肉弾アクションを売りにした作品の話題で、その名が俎上に登ることはあまりありませんでした。しかし本作で矢継ぎ早に展開される様々シチュエーションにおいての「殺陣」を見れば、彼が恵まれた肉体を持っているだけではなく、それを駆使したバトルアクトにおいて非凡な才能を持っていることは明らかです。

 

『マイティ・ソー:バトルロイヤル(2017)』DVD特典映像より

「脳は筋肉だから、つまり俺は全身が頭脳。」

これはソー時代に彼が残した名言ですが、その言葉の真なるかな。彼の筋肉は全て完璧なコントロール化にあり、決して飾りではないことが画面から伝わってきます。

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最先端の戦闘アクション

本作が長編映画のデビュー作となった監督サム・ハーグレイブ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』にてセカンドユニットを率い、ルッソ兄弟からの信頼も厚い新鋭ですが、彼の前身はスタントマン兼アクションコーディネーターであり、そもそも映画アクションに特化した監督であるわけです。『ジョン・ウィック』シリーズや『アトミック・ブロンド』のアクションコーディネートで映画界にその名を馳せた87eleven action design。サム・ハーグレイブは、その今を時めく87eleven action designと協力してこれらの作品の数々の名スタントシーンを作り上げてきた人物なんですね。自身も俳優として『アトミック・ブロンド』に出演し、シャーリーズ・セロンと戦ったりしています。

そんなわけで彼が手がける本作のアクションは、現代アクション映画のトレンドの集約といっていいような仕上り。

格闘戦はカランビットナイフが特徴的なインドネシアの武術シラットをベースにしており、銃を使ったコンバットでは『ジョン・ウィック』で一躍有名になった銃を体の近くで正眼に構えるC,A.Rシステム(Centar Axis Relock System)を殺陣に導入しています。

端的に言ってかなり『ジョン・ウィック』っぽいアクションデザインですが、クリス・ヘムズワースが演じることにより生じる圧倒的な「強さ」のリアリティは、前者を凌ぐものがあると思います。これは観た人みんなが言うと思いますが、中盤集合住宅で繰り広げられる疑似ワンカットの長回しアクションは、本作の白眉であり、このシーンを観るためだけにも劇場、じゃなかったNETFLIXに加入しても良いのではないでしょうか。

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ストーリーはやや難あり(ネタバレ)

※ここからはネタバレありです。鑑賞済みの方へ向けて書いています。

というわけで、アクションシーンは優に及第点の本作ですが、残念ながらストーリーには粗が多かったように見受けられます。

国境をまたいだ麻薬王同士の争いに端を発す誘拐事件が本作のメインプロットですが、視点人物を必要以上に増やし、それぞれを動かし過ぎてしまったせいで映画を通して散漫な印象を受けました。

例えば少年の護衛役のサジュ。ラストで主人公と共闘して誘拐された少年を守り、その最後はドラマティックに、観客の同情を誘うように描かれていますが、そもそも主人公ら傭兵チームをお金がないという理由だけで嵌めた上、傭兵チームを暗殺して油揚げを攫おうと非道極まりない作戦を立てた男です。「お前は結局何がしたいんだ。」という疑問が見てる間常に頭から放れませんでした。主人公のライバルを設定するなら、彼でなく誘拐した側から強敵を出すべきだったように思います。他のキャラクターも登場シーンは良くても掘り下げ方が足りないせいで、行動原理が意味不明な人物が多かったです。登場した際の敵側の冷酷さや残忍さの描き方が効果的だっただけに惜しかったです。

過去に愛息を失った主人公が死に場所を求めて危険なところに飛び込んでいくというストーリー展開。確かにどこかで何度も見たことがあるような印象は否めませんが、アクションを主体で見せる本作のようなジャンル映画であれば『ザ・レイド』や『96時間』のように、徹底的に主人公の孤立無援感を浮き彫りにした上でそれを打開していく主人公の超人的な活躍に焦点を当て、後は清涼剤として保護された少年と犯罪者である父親との葛藤や克服を描けば、もっと見やすく楽しめる映画になったのではないかなと考えます。

総評:78点(うち続編期待による加点10点)

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