続編映画の難しさ
観終わって痛切に感じたことは、この映画、ぜひライアン・ジョンソンに観て欲しいなということです。
ここ数年、観客の映画館離れが進んでいるせいなのか、スポンサーの財布の紐が固いのか、脚本家たちが横着なのか、どれが一番大きな要因か分かりませんが、昔大ヒットした映画のリブート作品がやたらめったら製作されています。例を挙げればスターウォーズのシークウェル(7からの新三部作のこと)をはじめとして、ブレードランナーやらエイリアンやらターミネーターやらプレデターやら、その数枚挙にいとまがありません。言わずもがなですが、本作『クリード/炎の宿敵』も、スタローンのロッキーシリーズのリブート映画、その二作目にあたります。
こういった続編映画の常として、オリジナル作品の公開から何十年と経過している間に、ファンの間ではそのオリジナルの「神格化」が進行し、いざ現代にアップデートした映画を作っても、うるさ型と化したオリジナルのファンの厳しい目に晒され、何かというと「旧作へのリスペクトが足りない」とか「キャラクターの理解が浅い」とかなどの批判を集めてしまいがちです。まあ、世界観を一から構築する手間を端折って、既にヒットした作品を下敷きにするわけですから、ハードルが高くなるのは仕方がない部分もあります。
特に『ロッキー』という映画は、色んな人の人生に影響を与えた映画史に残る巨大な作品ですので、『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006)で完璧な形で終わりを迎えた物語を新人監督が主役を交代させて、新しい物語を始めるということに公開前は懐疑的な見方が多かったのですが、蓋を開けて見れば前作『クリード/チャンプを継ぐ男』(2015)は世界的な大ヒット、内容についても「焼き直し映画」としては異例なほど新旧ファンの大きな支持を集め、その立役者となった新鋭ライアン ・クーグラー監督および主演のマイケル・B・ジョーダンは一躍時の人となりました。
監督交代の影響
『クリード』の二作目があるのであれば、当然、シリーズの奇跡的なリブートに成功したライアン ・クーグラー監督続投は既定路線かと思われましたが、クーグラーはこのシリーズでの続投はせず(『ブラックパンサー』では2も担当します)、南カリフォルニア大学映画芸術学部時代の友人であるスティーブン・ケイプル・Jrをフックアップし、大事なバトンを手渡しました。経緯や続編映画ならではの難しさを鑑みれば経験の浅い新監督(長編映画を撮るのは二作目)に課せられたミッションは並大抵の難易度ではなく、シリーズの先行きは再び不穏な空気に包まれたかと思われましたが、これが喜ばしいことに全くの杞憂に終わります。
鑑賞を終えて一番驚いたのは、監督という製作上の現場責任者が交代しているというのに、その影響を微塵も感じさせないどころか、映画を構成する全ての要素において、世の中的に大絶賛された前作を上回っているとすら感じさせる仕上がりになっていたことです。
前作で絶賛された要素、新キャラクターの掘り下げに始まり、ロッキーら旧キャラの扱い、入場シーンを含めたボクシングの試合演出、洗練された音楽使いといったおよそ監督のセンスに依るところが大きいと思われる箇所まで、本作はまさしく傑作『クリード』の正統続編であり、ロッキーシリーズにその名を連ねるのに何の遜色もない映画となっています。
本作の見どころ
個人的に、本作『クリード/炎の宿敵』で扱う因縁の発端となったロッキーシリーズの4作目『ロッキー4/炎の友情』はストーリー展開もそうですが、敵役であるイワン・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)のステレオタイプな描き方も含めて悪い意味で単純な映画だったと思っています。
『クリード』の主人公、アドニス・クリードの生い立ちを考えれば、この『ロッキー4』の語り直しは新シリーズにおいて必須であったという見方もできますが、ともすれば蛇足になってしまいやすいところを、非常にフェアで、節度あるドラゴ父子の扱い方は、この映画があって救われたとすら思えるものでした。彼らの最後の登場シーンなんか特に最高でした。
新たな展開を迎えるアドニスとビアンカのカップルが直面する事態や、シリーズ最後になるというロッキーのエピソードも、一切の不自然さのない形で映画の推進力となっていて、総じて本作の最大の見どころはシリーズ最良と言ってもいいその脚本にあると言えそうです。
偉大なオリジナルの続編を作るのであれば、この映画のように作ってほしい、切にそう思えるお手本のような作品でした。
86点