ビターでちょっぴり大人向け?『シュガー・ラッシュ:オンライン』レビュー

ビターでちょっぴり大人向け?『シュガー・ラッシュ:オンライン』レビュー

※この記事は映画の結末についてネタバレしています。未見の方はご注意ください。

鑑賞を決意するまでが長かった

ディズニーの新作アニメーション映画と言うと、昨年の『最後のジェダイ』のことや、ジェームズ・ガン監督解雇の件をまだ消化しきれていませんし、それらがなくても「ディズニーアニメが出来が良いのは観る前から分かっているので興が削がれる。」と思ってしまうタイプの人間なので、本作も公開終了後、評判がよかったらレンタルするかもな、くらいに考えていました。

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で、12月22日(土)、なんか映画観たいけどこれといって観たい作品がない、仕方ない、『アリー:スター誕生』でも観るかと劇場に足を運んだんですが、あれですね、アクション映画バカとしては、あの手の映画もまた基本的に関心が薄いので、「よく考えると『スター誕生』ってサブタイトルはどうなの?(※リメイクなので仕方ない)」とか「生肉ドレス着てた奴が、ウブなキャラ演じるのを観るのもなあ。」とかチケット売り場で迷い出しまして、結局、どうせ金払うなら面白い確率が高い映画にしようと、本作の鑑賞を決意したわけです。

ディズニーアニメの『デッドプール』

先ほど茶化すように「どうせ出来が良い」みたいに書きましたが、改めて、ディズニーアニメの細部に渡る作り込みと、映画の舞台の「擬人化」ならぬ「擬人間世界化」の巧みさには舌を巻くほかありませんでした。

そもそもCGアニメーションですので、ゲーム内の仮想空間表現との親和性が高いことは前作『シュガーラッシュ』で実証済み。その上で、続編のテーマであるインターネット、オンラインをどう視覚的に見せるかが本作のキモでしたが、ネット空間を巨大な都市に、無数に存在するアカウントを人型のアバターに見立てる手法で、難題を見事クリア。私見では『インサイドヘッド』(2015)の実験的試み(体内擬人化表現)が功を奏している気がしました。

細かく作り込まれたわちゃわちゃした世界は、何も考えずに観ているだけでも楽しいですが、最近のSNS事情に明るい人やITリテラシーの高い人ほど、小ネタが分かってより楽しめる作りです。

そもそも現実と地続きにあるゲームのプレイヤーやPCを操作する人間、その存在を把握しているCPUの中にいるキャラクターたちというメタフィクション的構図は、20世紀FOXの『デッドプール』がスマッシュヒットを飛ばして証明したように、2018年現在まだフレッシュで観客が喜びやすい作りでもあります。

あと忘れずに言っておきたいこととしては、この映画、カーチェイスシーンが最高でした。スローターレース内での白熱したバトルは、まるで『マッドマックス:怒りのデスロード』を観ているかのような迫力。総じて大人でも(むしろ大人の方が)十二分に楽しめる映画にしっかりなっていました。

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ストーリーはちょっと難あり

とまあ、ここまでで十分及第点と言えなくもない映画ではあるのですが、肝心の物語はというと、あまりうまく収まりがついていません。

映画の中盤までは、次々に登場する新しい舞台やキャラクター紹介で中だるみすることなく一気に持って行くんですが、ラストに向かって山場らしい山場を作るため、設定や主人公2人の性格を前作からかなり改変し(ex.一日一回ゲームに戻らなきゃならない設定の解除とか、ラルフが器の小さい嫌な男になってたりとか)、前作からは想像つかないような行動を取らせて仲違いさせておいて、クライマックスでいい話っぽく着地させようとする話運びは、他のディズニー映画の水準からすると、かなり乱暴な印象を受けます

そもそもこの映画何が言いたいのでしょう。

「女性の社会進出を邪魔するな?」「真の友情とは常に一緒にいることじゃない?」「可愛い子には旅をさせろ?」メインテーマとするにはどれもちょっとスケール不足な気がする話ですし、頼りになる女性が共にいるとはいえ、R-18っぽいオンラインレースゲームの中で生きることがヴァネロペの「夢の実現」という着地は、かなり飲み込みづらいものがあります。ラルフが心配するのも無理ありません。

もっと言うと、このラルフとヴァネロペという2人のキャラクター。それぞれゲームの固有のキャラであるというアイデンティティが、今作は殆ど意味を持ってないんですよね。特にヴァネロペの方は、序盤で彼女が登場するゲームを楽しみにしているという現実側の少女が登場するにも関わらず、彼女はその「プレイヤー」のことを一顧だにしません。結果、彼女は、自己実現のことだけを気にして、その身を心配する友人も、自分の社会的立場も振り返らない、身勝手なただの子供に見えてしまう訳です。これでは共感を得難いですよね。

おそらくですね、ラルフが一人ヴァネロペの旅立ちを見送ると言う、今作と同じ結論にするのであれば、ヴァネロペが「スローターレース」を通して世界中に自らのドライバーとしての能力、キャラクターの存在を認識させ、その結果ネットミーム化し、その影響で廃盤であった自らのホーム「キャンディレーサー」がオンラインゲームとなって新作リリースされる運びになり、より多くのプレイヤーを楽しませるためにそのトップレーサーとしてインターネット空間で転戦しなきゃならないのでラルフといつも一緒にいられなくなったとかだったら、いろんな登場人物の願望を満たす形になり、ラルフも寂しさを堪える理由があるので、より収まりが良い話になったんじゃないかなと思います。

ストーリー以外は、なんの文句もない映画ですので、ちょっと勿体無かったです。

75点

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