微ネタバレ警報
この記事は、主に劇場長編アニメ映画『プロメア』の個人的な感想によって構成されています。ストーリー上真相に当たる部分を直接言及はしないようにしますが、文脈を読めば伝わってしまう程度にしかボカシていません。ネタバレが魅力を削いでしまうタイプの映画ではないと思いますが、本稿をお読みいただけるのであれば、ある程度内容を知ってから劇場に行きたいという場合を除いて、原則同作を鑑賞後になさることを推奨いたします。
アベンジャーズが終わってしまいましてねー。
しばらく抜け殻のようになっていたのですが、そもそも発売日を楽しみにしている玩具や、耽溺する映画がないと生活に潤いを見出せないタイプの人間ですので、「なんか新しくて面白そうな映画ないかなー。」と低いアンテナを張り巡らせていたところ、引っかかったのがこの長編アニメ映画『プロメア』でした。
表題にも書きましたが、筆者は普段アニメをあまり鑑賞しません。本作の前、最後に劇場で鑑賞した「日本のアニメ映画」となると2016年の『君の名は。』まで遡ります。以降もNETFLIXなどでは湯浅政明監督のデビルマンや、フルCGのULTRAMANなどを観てはいますが、洋画邦画問わずアニメに対して特に思い入れのない人間が書いているレビューだということ、そしてこんな前置きがあるってことは、若干批判的な内容であるということは読む前にご承知おきください。
あらすじ
Youtubeの公式チャンネルに記載されている『プロメア』のストーリーはこんな感じです。(以下抜粋)
世界大炎上――。 全世界の半分が焼失したその未曽有の事態の引き金となったのは、突然変異で誕生した炎を操る人種<バーニッシュ>の出現だった。 あれから30年―― 攻撃的な一部の面々が<マッドバーニッシュ>を名乗り、再び世界に襲いかかる。対バーニッシュ用の高機動救命消防隊<バーニングレスキュー>の燃える火消し魂を持つ新人隊員・ガロと<マッドバーニッシュ>のリーダー・リオ。熱き魂がぶつかりあう、二人の戦いの結末は ――。
まあ、これだけではなんのこっちゃ判りませんわな。
筆者もあらすじを読んで、マーベルコミックでいうX-MENとアベンジャーズの争いみたいなもんかなと、「とにかくバトルするのね?」くらいの認識で劇場へ出かけました。
本作に関してはテレビシリーズの続編やスピンオフなどではなく、完全に単体のオリジナルストーリーなので、予備知識がなくても楽しめるタイプの映画ですが、「2足歩行ロボットが出てきて戦う。」「SFファンタジーである。」ということだけは鑑賞前に了承しておいた方がいいかもしれません。でないと初っ端から超展開の連続ですので、いきなり気持ちが置いていかれる恐れがあります。
優れたアートワーク
『天元突破グレンラガン』『キルラキル』の今石洋之と中島かずきコンビ再び!と言われても、どちらも鑑賞していない筆者の心には一切響かなかったのですが、それではなぜいきなり守備範囲外とも言えそうなこの映画を鑑賞してみようと思ったかというと、予告編で流れる本編映像のみならず、ポスターやフライヤー、映画館ロビーに展示されている予告パネルボードなどから見てとれる、本作の作画や彩色設計が「イケてるな。」と感じたからなんですね。
アメリカのコミックやカートゥーンと、日本製アニメ文脈のハイブリッドと申しましょうか、キャラクターデザインといいカラーリングといい非常にポップで新しい印象を受ける素晴らしいアートワークだと思います。
キャラデザインに関しては週刊少年ジャンプで連載中の超人気漫画『僕のヒーローアカデミア』なんかと、同じようなコンセプトなのかなと想像しますが(素人判断です)、今石監督のアニメでいうと2007年の『グレンラガン』の時点でもう本作に通じるようなデザインが見てとれますので、本作の名誉のためにも一応、どちらが先かということは明らかにしておきます(僕アカは2014年連載開始)。
ピンクやパープルを多用する、まるで対象をプリズムを通して見ているような、現代アートのような彩色設計も、非常に斬新で魅力的な画面作りに大きく貢献していると思うのですが、惜しむらくは、昨年公開され世界のアニメシーンを席巻したソニー製作の『スパイダーバース』も非常に良く似た手法をとっており、あちらの方が先に公開され、アカデミー賞まで取ってしまいましたので、アニメ映画の製作スパンを考えれば、『スパイダーバース』を真似たはずはないのですが、公開順が逆でさえあれば彩色設計について本作が世界的な評価を受けることだってあったかもしれないという点がもったいなかったですね。
タイトルロゴも、これは意図してやっていることだと思いますが大友克洋の『アキラ』っぽくて非常に好みでした。
第一線俳優陣のボイスアクト
生粋のアニメファンにとっては意見の分かれるところだと思いますが、松山ケンイチ、早乙女太一、堺雅人らが担当した主演3人のボイスアクトは、僕にとってはこの映画の長所として感じられるくらいとても良かったです。
特にリオ役の早乙女太一さんが抜群でしたね。
アニメ門外漢の僕が苦手に感じる要素として、あるジャンル特有の「萌え」や「中性的な美少年描写」などが挙げられるのですが、主人公のライバルにあたるバーニッシュのリーダー、リオ・フォーティアの声を担当した早乙女さんのやや低く凛々しい声が、フェミニンなキャラクターデザインを中和し、映画のテーマの一つであろう「熱い友情」を観客にバッチリ伝えられていたと思います。
主人公ガロを演じた松山ケンイチさんなんか、それと言われなければ気付かないくらいの見事なプロ声優っぷりでしたし、堺雅人さんはね、まあ堺雅人さん以外の何者でもありませんでしたが、とにかく一番の熱演で、観ているこっちにも嬉々として演じられてる様子が伝わってきて、僕は俳優としての彼のファンでもありますので、見応えというか聴き応えがありました。
ないがしろにされたロジック
ここまではこの映画の良いところを挙げてきたつもりですが、この『プロメア』、あくまで個人的な見解を言わせてもらうなら、ストーリーや設定はちょっと雑すぎます。
トリガー製作アニメのファンにとっては「それがトリガーで、そこがいいんだよ!」ってことなのかもしれませんが、全編を通して勢いだけでもっていくような話運びや、後出しが多めの超展開、劇中あっちこっちとぐらつきがちの設定と、思わず「まるで実写版トランスフォーマー(ベイ監督のね)を観ているようだ…。」とボヤきたくなるような脚本には正直げんなりしました。
ゆるめの設定を勢いで何とかしようとする場合、キャラの魅力で持っていくという手法もあるのですが、本作は熱血漢の主人公はこういう思考でこういう行動、腹に一物あるキャラクターは逆にこう、というような所謂アニメ文脈の定型に頼る部分が多く、キャラクターの掘り下げを劇中サボってしまっているように感じるため、それもうまくいっていないように感じました。
まるでSFロボットアニメシリーズの第一話と最終話を同時にやってしまっているよう、というと2013年の『パシフィック・リム』なんかも同じ批判を受けた映画ですが、あちらは物語の導入や、最後の敵を倒すロジックに時間をかけた分、勢いへの乗りやすさという点では本作よりかなり上でした。
製作陣がそもそも一見さんお断りの作品を作って、受け手も出し手もそれでいいというのであれば、門外漢が口を挟むことではないかもしれませんが、日本製アニメの素晴らしさを世界中のより多くの人間に届けようという志のもと製作されており、これからも今石監督中島脚本のコンビで映画を作られるのであれば、シナリオ面のブラッシュアップは必須の要素ではないかと、僕個人は思います。
ただ、このご時世「熱さ」を売りにする作品はそれだけで好感が持てますし、玩具好きとしては前述しているようにキャラデザやアートワークは非常に好みですので、次作があれば是非劇場で観たいと思う次第です。
総評:72点