ネタバレご注意
本稿は『アベンジャーズ:エンドゲーム』を大満足(5回鑑賞)して見た筆者が、それでも最近夜眠りにつく前に「よく考えるとちょっと変じゃね?」と思ってモヤモヤしてしまうポイントをざっくりと記事にしたものです。この記事に映画自体を批判する意図は全くありません。また本稿は『アベンジャーズ:エンドゲーム』について、細かいことから核心部分についてまで割とフランクにネタバレしています。本稿をお読み頂けるのであれば、当然ながら同作鑑賞後を推奨いたします。
筆者の職場の同僚に一人、筆者と同じくらいの熱量でマーベル映画を応援している30代前半の女性がいます。
2019年5月7日、大型連休明けの火曜日に久しぶりに顔を合わせたので、「エンドゲームどうだった?」と聞いてみると「超面白かったです…。」と言葉とは裏腹にうかない顔。
訝る僕を察してか「あのソー、何なんですかね。」と噛みしめる様に言葉を絞り出す彼女。そう、彼女はクリス・ヘムズワース演じるソー・オーディンソンの熱烈なファン。それも日ごろから一番好きなMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)映画は『マイティ・ソー:ダークワールド』(2013)だと言って憚らない、ちょっとどうかしてる、じゃなかったハードコアな信者なのです。
「あの腹、ビンタしてやりたかったですよ。」と筆者の目を一切見ずにうめく彼女。
一方筆者は『マイティ・ソー:バトルロイヤル(原題:Thor Ragnarok)』(2017)がMCUの中では3本の指に入るくらい好きという点で、彼女とは通じ合うものがあるので「それを言うならハルクも大概だったよね。」と重ねると、「私、クーナッツ(数量限定・劇場入場者プレゼントのおきあがりこぼしで、全6種が中身が判らない袋入りで配布された)ハズレだったんです。」と広げた手のひらにははハルクのクーナッツ。
マイティ・ソーとインクレディブル・ハルク。
「アベンジャーズ最強」の名を争ってきた2人にいったい何があったのか。
扱いが不満、と言うと本編に文句があるみたいですが、それはないと前置きした上で、本稿では「でもやっぱりこの2人のカッコいいところがもう少し観れたら良かったのに。」という、ファンならではの行き場のない胸のうちを、ただ羅列させて頂きました。お暇な方、しかもできればここまで読んで共感できる部分が少しでもある方のみお付き合いください。
公開前日に不穏な兆候
『アベンジャーズ:エンドゲーム』日本公開日前日の2019年4月25日。
日本の洋画ファンの5人に1人くらいは聴いている(筆者調べ)という、ラッパーのライムスター宇多丸さんがMCを務めるTBSラジオの人気番組『アフター6ジャンクション』ではこの日、『エンドゲーム』公開記念として「MCUオールスター総選挙」という特集が組まれました。
内容は読んで字の如く、2008年の『アイアンマン』から2019年『キャプテン・マーベル』まで、公開済みのMCU映画21作品に登場したキャラクターの中から、リスナーの投票で人気ランキングを決めようという企画でして、番組ではてらさわホークさんを始めとするアメコミ有識者のコメントを挟みながら、そのトップ10が発表されました。まず、そのランキングをご覧ください。
1位 キャプテン・アメリカ
2位 アイアンマン
3位 ピーター・クィル(スターロード)
4位 アントマン
5位 ヨンドゥ・ウドンダ
6位 ホークアイ
7位 キャプテン・マーベル
8位 ロキ
9位 バッキー・バーンズ(ウィンターソルジャー)
10位 スパイダーマン
10位からカウントダウン形式で発表されたこのランキング。僕も6位のホークアイあたりまでは「いいねえ。」と純粋に楽しんでいたのですが…その後ランキングは予想だにしない意外な展開に。
ソーとハルクが、まさかのトップ10落ち。
2人ともアベンジャーズのオリジナルメンバーですし、何度も言うように戦力的に1、2を争う重要な存在。それが人気ランキングにおいて、ポッと出のキャプテン・マーベルはおろか、ヨンドゥの後塵を拝すことになるとは。
今振り返ってみると、この結果は、翌日公開された『アベンジャーズ:エンドゲーム』においての2人の境遇を、暗示したものであったと思えなくもありません。
Chubby Thorについて
「サノスを連れてこい!(Bring me Thanos)」の雄叫びと共に、前作『インフィニティウォー』のクライマックスバトルで、おいしいところを全てかっさらった感のあった雷神ソー。
ところが『エンドゲーム』では、序盤こそカッコよかった『インフィニティウォー』当時の姿のまま、サノスの首をフルスイングでかっ飛ばしたりしてましたが、全ての試みが無駄に終わり、失った仲間は永遠に戻らないと分かると、失意のどん底へ。
5年経過した後に、ロケットとハルクが迎えに行くと、ソーはニートにジョブチェンジしており、ギリシア彫刻のようだった肉体は長年の不摂生とビールの飲みすぎで丸々とした見事な肥満体に。
(マナーが悪いオンラインゲームの相手をボイスチャットで口汚く罵るくだりは、腹がよじれるかと思いました。)
高潔で勇猛な戦士を、ここまで落ちぶれさせてしまったということにサノスが残した傷の深さが伺えましたが、初見時筆者は心のどこかで「とはいえ最終的には以前のソーに戻って戦うんでしょう?」と思っていました。
ですから、トニー・スタークが、戻って来たソーに「どけ、リボウスキ。」と洋画ファンしか判らないひどい悪口をぶつけたり、過去の世界でマザコンになってしまっていても呑気に笑って観ていられたのですが、まさか肥満体のまま、そして戦力的に万全な状態とは程遠いままエンディングまでいってしまうとは…。
もちろん映画的にこの「肥満体ソー(英語ではChubby Thorで通ります)」の登場は、ストーリーに意外性をもたらし、キャラクターの心の流れを表現するのに有効な手段であったと理解はしているんですが、もし一応アナウンスされている通り、本作がクリス・ヘムズワース演じるソーの、最後の出演作なのだとするならば、彼が完璧な姿、万全な状態で戦うところがもう一度見たかったと、名残惜しい気持ちになります。やり方はいろいろあったと思うんですよ、例えば過去の世界でムジョルニアを手にしたときに、元の姿に戻る、とかね。
スマッシュしないハルク
何でも本作に登場するハルクを製作側は「スマート・ハルク」と呼んでいるそうです。
前作『インフィニティウォー』では、得意の殴り合いでサノスに完膚なきまでに叩きのめされて以来、イップスになってしまったかのようにハルクに変身することができなくなってしまったブルース・バナー博士でしたが、指パッチンから5年経過し、何故か自力でそれを克服。理性を保ちながら常時ハルクでいられる能力を身に着けてしまっています。前作の原因不明のイップスは、伏線として回収され、サノスに対してハルクの反撃的なものは描かれるものとばかり思っていましたが、それはありませんでした。
私の記憶が確かならば、ハルクは怒れば怒るほど強くなるキャラクターであったはずですが、本作のハルクはほとんど(全く?)怒りません。
さらにですね、先日地上波放送されていた『アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン』を再鑑賞すると違和感が顕著なのですが、惑星ヴォーミアでソウルストーンを回収するくだり、ここは『インフィニティウォー』をご覧になった方ならお判りのように、愛情で結ばれている2人が行くべき場所であるわけですが、ナターシャ(ブラック・ウィドウ)と道行きを共にしたのは、ハルクではなくクリント・バートン(ホークアイ)でした。
確かにクリントとナターシャも付き合いの長い盟友で、愛情といっていい深い絆で結ばれているのは理解できますが、ハルクとナターシャはもっと直接的な「一緒にお風呂に入っちゃおうかしら。(ナターシャ談)」と迷うくらいの仲であったはずです。ナターシャは相手が例えキャップでも、その命を投げうつ覚悟はしたでしょうが、自死しようとしても死ねないハルクと、彼を男として愛したナターシャという組み合わせであれば、よりドラマティックに、さらにハルクがイップスを抜けるようなエモーションの高ぶりが得られたのではないかと。
ホークアイは前作出番がなかったので、本作ではそれを払拭するかのように獅子奮迅の活躍でしたが、インフィニティストーンの担当は、エンシャントワンのところでも問題はなかったんじゃないかなと。
事ほど左様にですね、ハルクに関してはソー以上に、これまでの作品で描かれてきた文脈があまり反映されておらず、その上インフィニティガントレットを使用して片腕が破壊されてしまったので、最後の戦いでも見せ場らしい見せ場はありませんでした。降り注ぐ爆撃の嵐の中、乾坤一擲敵の戦艦に大打撃を加える役目は、これまではハルクの役目であったはずですが、その役割もキャプテン・マーベルに奪われてしまっていました。
新しいキャラクターの活躍の場を作ろうとすれば、自然従来のキャラクターの扱いが小さくなるのは致し方ないことかもしれません。
しかし、描かれ方や、キャラクターの幕の引き方、共に最大限の扱いを受けたキャップやアイアンマンとは異なり、ソーとハルク、この2人が好きなファンにとってみれば、『アベンジャーズ:エンドゲーム』は「これが最後なんて言わないで、もう一作ずつお願いします。」と余計なこと言いたくなる映画でもあります。
以上、長々と筆者の愚痴にお付き合い頂き誠にありがとうございました。